過去記事『ABU-MATIC 141』

 お知らせになっちゃいますが、この度【トップ党 Vol.4】に、僭越ながらスピンキャストリールの記事を書かせていただくこととなりました。
 最初から飛ばしてABU-MATIC(アブマティックと自分は呼びつづけていますが、アブマチックでも問題ありませんよ)を取り上げたのですが、紙面では自分の愛機である『ABU-MATIC 141』についてはほとんど触れなかったこともあって、『リールズのリールズ』にて100番台唯一のレフトハンドルモデルであるABU-MATIC 141を取り上げることとします。(2桁モデルの41、61は所有していないので触れ(られ)ません)
最終モデルだけが赤いベルカバー

 左ハンドルのアブマティック、その存在を最初に知ったのはいつのことだったか?
 時期的な記憶がかなり曖昧ですが、20代半ば(1996~1997年?)頃だったかと思います。
 某釣り具メーカーのリール設計担当の方と、仕事の打合せの合間に、当時夢中だったアブマティックについて雑談をしていた時のことです。
 やっとのことでオールドリール専門店で見つけ、恐ろしいほど高値で入手し(当時はまだバブル期ですから)、使いはじめたゴールドカップの初期型ABU-MATIC 145について、
「シンクロドラグなんて言う素晴らしい機構がほとんどの機種にあるのに、ダイレクトだなんて変わってますよね~」
 などと偉そうにのたまっていたわけです。

「いやいや、ダイレクトモデルは結構あるんだよ。それより左ハンドルのアブマティックがあるのを知ってるかい?」

 唐突に投げかけられた、未知のステキ情報に確実に動揺しまくっていたことでしょう。
 この頃よりもずっと以前から、左ハンドルのリール以外は上手に使えなかった自分にとって、お気に入りのアブマティックには存在していないと思い込んでいた、左ハンドルのアブマティックがあるというお宝情報。
 悶々としないわけがありません。
 当時、インターネットはまだモデム(33.6k bps)ですよ、モデム!
 ホームページも恐ろしく少なく、ネットで情報取るなんてほとんどできない時代。
 オールドショップで手に入れた古いアブのタイトラインやエビス時代のアブのカタログやらを調べまくりましたがそんな情報はなく、半ば諦めかけ始めた頃、古いガルシア社のフィッシングアニュアル(最新釣具年度情報誌で1965年のもの)に、ついに恋い焦がれた左ハンドルのアブマティックの広告を見つけたというわけです。

 元の冊子が見つからないので、ネットからの拾いものですが、この衝撃を少しだけでもご理解いただけますでしょうか?
 「もう絶対なんとしても、いつか手に入れるんだ!」と、熱く誓った25歳頃の自分。
 紆余曲折あって、たぶん10年以上は時間が掛かったと思いますが、ついに巡り会える日がやってきました。
 しかも、ピッカピカのABU-MATIC 141の赤!
 ベルカバーの一部に潰れがあり、付属品(ボックス、マニュアル等)も一切なかったものの、リールフットにすら取り付けた痕跡のないMINTグレード品。
 しかも、驚くほど安価だったという・・・。(といっても170等に比べたら割高でした)
 それも、やはりご縁なのでしょうね。

 その後、ベルカバーの潰れ(前のオーナーが落っことしたらしい)が気になり、スペアのベルカバーの入手に奔走することとなるわけですが、そこでABUMANさんのホームページにたどり着き、自分のと同じ赤い141の写真を見つけて更に大興奮です。
 わからなかったパーツナンバーを教えていただいたりして、感謝感激でした。(その節はありがとうございました)

 ABU-MATIC 141、実は3種類の仕様があったことがわかっています。
 初期モデルは、白い丸いハンドルノブ、ベルカバーとスタードラグは淡いシャンパンゴールドで、プッシュボタンは白の半透明な樹脂。
 中期モデルは、初期モデルとほぼ同じですが、ハンドルノブが捻りの黒となります。(上記画像の通りの仕様)
 そして後期モデル(最終モデル)が赤いベルカバー、赤いスタードラグ、赤いハンドルシャフトに黒い捻りノブ、黒いプッシュボタンという仕様です。
 右ハンドルのABU-MATIC 140も、141と同様の仕様変更をたどり、それまでシャンパンゴールドだった外装が最終モデルで赤いカラーに変更となった模様。
 同型モデルの160は、最初から赤いベルカバー、赤いスタードラグ、赤いハンドルシャフトに黒い捻りノブで、末期に段なしのベルカバーと120と同様の長いプッシュボタンに変更されたくらいで、カラーチェンジなんて当然ありませんでしたから、140と141が最後の最後にどのような理由でカラーチェンジを行ったのかについては永遠の謎のままです。

 余談ついでに、140と160は、何が違うのかについて。
 モデルナンバーとカラーリング以外、まったく同一のパーツで構成された製品で、北米版が140、ユニバーサルモデルが160であることが大前提ですが、北米版160も存在するという不思議。
 どうやら同型モデルのモデルナンバー違いの秘密は、アメリカでの販売を担ったガルシア社における販売戦略の事情が絡んでいたようです。
 最初の二桁モデルである『ABU-MATIC 60』をアメリカ市場で販売した際、競合他社製品と比べるとかなりの高額であったことが災いし、セールス実績があまり振るわず、急遽、“廉価モデル”という名目で、コストダウンした『ABU-MATIC 40』を市場投入した流れが、そのまま100番台モデルにも残ったのがその理由のようです。

 60は革製の豪華なリールポーチが付属しましたが、40は紙箱のみの簡易梱包仕様で、同型リールなのに廉価モデル扱いとされたのでした。
 よって、40、140、141は、ガルシアネームが必ず刻印されている「U.S.限定仕様」となり、60、160はユニバーサルモデルなので、欧州や日本でも販売されたという経緯がありました。

 『アブの赤は特別なカラー』という話はどこかで書いたかと思いますが、アブ社にとっての赤いカラーリングはハイエンドモデルの証であり、廉価モデルとしては赤は相応しくなかったのでしょう。
 苦肉の策のシャンパンゴールドのアノダイジング塗装にした、というのが実態だったようです。
 結果として同じカラーリングになってしまっては、同じモデルだと認めてしまったようなものですが、同じカラーになってしまったことで、後の時代に「何がどう違うんだ?」とマニアの間で混乱を招く結果となったように思います。
 と言っても、ABU-MATIC 140はその後、結果的にABU-MATIC 160に統合されて製造中止となるのですが、その橋渡しという理由もあったのかもしれませんね。

 Garciaネーム付きの北米版ABU-MATICには、限定モデルが多く、とにかくコレクター泣かせです。
 小型タイプには130、136、140、141、中型にも152、155という北米限定モデルがあります。
 中身は特に何が凄いとかはありませんが、細かいパーツの違いやカラーリングでそれぞれのナンバーが振られており、特に130や152については最近までマニアの間ですら、その存在を知られていませんでした。
 ユニバーサルモデル(110、120、135、145、150、160、170)と合わせても、これだけ多くの種類を市場投入していた事実からも、セールスには非常に苦労していたことを伺い知ることが出来ます。
 結論から言えば、北米におけるスピンキャスティングリールのシェアは、圧倒的にゼブコ社とジョンソン社の2社に牛耳られ、高価だったABU-MATICはその性能とは裏腹に、殆どシェアを伸ばす事は出来なかったようです。

 「お爺ちゃんのガレージから出てきました!」
 などという売り文句で出てくるABU-MATICたちは、決まって未使用品か、大切に扱われて傷が殆どないものが多く、このリールが特別なものだったことを教えてくれます。
1964年製という赤いカップのABU-MATIC 141は、既に50年以上前に作られたリールですが、いまだ現役のリールであり続けています。
『一生モノ』なんていうリール、そうはないと思いますね。

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