ABU-MATICを超えることは出来るのか?
久しぶりにスピンキャスティングリールのお話しです。
トップトウ(当時はトップ党)での最初の『スピンキャストリールズ』の連載記事は、アブマティックでした。(エビスフィッシングがこう呼んでいただけで、アブマチックと呼んでも大丈夫)
クローズドフェイスリール、スピンキャストリール、スピンキャスティングリール、フィックスドスプールリール・・・呼び方は色々、正式名称がどうとかは、好きに呼べばいいと思います。
日本でのこのタイプのリールの印象は非常に悪く、常に初心者用リールだったり、安物のイメージが付きまとっていて、すぐに上級者になりたがる気質を持つ日本の釣り人の間では「使えないリール」、「使っていて恥ずかしいリール」の烙印を押されたまま、1970年代から現在に至るまで、あまりその評価は変わっていない模様。
そんな中スウェーデンのABU社のアブマティックだけは、このタイプのリールの中では別格扱いであり、異彩を放っていたことは間違いないでしょう。
とはいえ、当時の価格帯では国産ベイトキャスティングリールよりも高額だったこともあり、一目は置かれていたものの、やはり人気がなかったことも事実です。(バンタム100のおおよそ1.5倍くらい高価だった)
当時は小学生だったこともあって、単純にデザインとベルカバーの色に惹かれましたね。
国産のクローズドフェイスリールは、オリムピック釣具のものだったり、ダイワ精工のものだったり、リョービのものだったりが一般的に流通してはいましたが、一番人気はリョービのダイナフィッシュかダイワのハイキャストだったかな?
初めてのルアー用リールはクローズドフェイスリールで、その後、ベイトキャスティングリールにステップアップしていくのが当時の通例でした。
実際、クローズドフェイスリールはトラブルレスを謳っていた割には結構ライントラブルがあって、やっぱりバックラッシュはしても「バンタムかファントムの方が格好イイ!」と、すぐにベイトキャスティングリールの方に移行していく流れがありました。
当時の小学生の感覚はそんなものです。
スピンキャスティングリールに魅了されるなんてことは、まずありませんでした。
自分は、しょっぱなからスピニングリールで、クローズドを使う友人たちを横目に、「いつかはバンタムを・・・」と想いを馳せていたものです。
スピンキャスティングリールはそんな小学生時代のイメージのまま、実際に使うことなく中学3年生くらいで釣りから離れていき、大学時代に釣りに復帰した頃には、もはや店頭で見かけることのないリールになっていました。
復帰してすぐ、スピニングリールのトラブルに悩まされていた自分がたまたま手にしたのが、売れ残っていたAbuGarcia社の1044シンクロマッチ。
当時、芦ノ湖の一部のルアーマンが愛用していたこのリールを手にして、小学生時代の記憶が蘇りました。
ABU503に憧れを抱いていたこと、ついでに気になっていたアブマティックを実際に手に入れる機会を得て、これらを時代錯誤も甚だしいのですが使い始めるようになりました。
最初に手にしたのはABU-MATIC170ではなく、ABU-MATIC145でした。
ゴールドのカップに惹かれてオールドタックル専門店で購入。
当時はバスバブル期だったこともあり非常に高額でしたが、美しいリールでとても気に入っていました。
実際に使ってみると、まずストレートグリップのロッドとのバランスが劣悪。
昔よくあったオフセットグリップのハンドルなど皆無、FUJIのガングリップさえ見かけることがない状態で、ストレートグリップでは使い辛いことこの上ない。
それでも無理やり使っていましたが、このタイプのリール全般の特性に気づくこととなります。
まず、リトリーブスピードが非常に遅い。
ギア比が1:3くらいしかないので当たり前ですが、ハンドル1巻きあたりの巻き取り量は50cmもない。
そして、ロースピードの癖に巻き取りトルクもあまりない。
トップウォーターならまだしも、クランクベイトを使えば、巻き取るのにも骨が折れる。
最後に、距離のコントロールは投げる際の力加減次第であり、案外難しい。
キャスト後にプッシュボタンを押し込めばラインは止められますが、飛んでいるルアーが引き戻されるなんてこともざら。
一言で要約すると、想像以上に使い辛いリールでもありました。
使い辛いこのリールを快適に使うには?をテーマに、あれやこれやと色々と試していくことに・・・。(よく途中で放り投げなかったものです)
そこで得られた答えは、
・オフセットグリップにセットすると、急にバランスが良くなってパーミングもやりやすくなる
・スローテーパーのロッドではキャスティングのコントロールが難しくなる
・カーボンシャフトのファーストテーパーの方が圧倒的に使いやすい
・ロンドレングスは6ftが上限で、5.6ftくらいが丁度よい
・ベルカバーごと掴んだパーミングの方がロッドのホールドが安定する
・ラインオリフィスに人差し指を当ててフェザーリングを行えば、キャスティング距離のコントロールが容易となる
・近~中距離のキャストコントロールが秀逸
・遠投にはあまり向かない(やはり他のリールの方が飛ぶ)
・重いルアーは、テイクバック時にスリップするため、片手のみのキャスティングでは上手く投げられない
・プッシュボタンを切って、左手の指でラインを摘まみながらのキャスティング、即ち両手を使ったキャスティングが出来る(=トゥーハンデッド・キャスト)
・障害物廻りでバスを掛けた際、クラッチを切ってフッキングしつつ引っ張り出すことが可能
・シンクロドラグはとても使いやすい
・使用するルアーの上限は重くとも14g程度まで(5~10g前後がベスト)
・巻き抵抗の強いルアーには向かない
・スラックラインの巻き取りがやりづらい
・滑りの良いナイロンラインでないとライントラブルが頻発する
・使用出来るラインの太さは4~20lb(ナイロンライン限定で直径約0.20㎜~0.40㎜程度)
というものでした。
ついでに、他社のスピンキャスティングリールも色々と入手して使ってみたものの、アブマティックを超える使用感を持つリールには未だ出会えていません。
どうしようもないスピンキャスティングリールが多いのも、仕方がないと思います。
理由は単純で、ここ30年(1990年以降)のスピンキャスティングリールに、高級素材や堅牢な設計を施されたリールが存在していないからに他なりません。
オリジナルのスピンキャスティングリールは、ジョンソン社のセンチュリー100と、ゼブコ社のモデル33ですが、最高級モデルは170Seville(ジョンソン社)、33XBL(ゼブコ社)です。
それぞれに優れたリールではありますが、アブマティック170を超えているかと問われれば「そこまで完成度は高くない」と思います。
例えば、ローター廻りの設計に関して、ジョンソン社は固定方法も脆弱なボルト・オン方式(ナット止め)ですし、ゼブコ社も同様です。
ワインディングカップの素材もアルミ合金のような、厚みのない薄いもの。
ラインの抵抗を考慮に入れているとは思えない形状もしています。(アメリカ的な合理的な設計ですが)
また、分解するにあたり、ローター廻りを取り外すのには工具が不可欠である点。
ライントラブルの際は、厄介なこととなる設計です。(ナットを紛失するなど)
その点、アブマティックは、工具なしでスプールまで簡単に取り外すことが出来ます。
現在も、古いアブマティックの利点は非常に多いです。
まず、その個体の残存数。
特にハイエンドモデルでもあった170の現存率は非常に高く、スピンキャスティングリールのことなど良くわからないようなオールドタックル専門店でも、ネットオークションでも容易く手に入れることが出来ます。
部品についても、共通部品が多いため、別ナンバーのモデルからも部品を取ることが出来ます。
言い方を変えれば、大きさが一緒であれば、150のベルカバーを170に組むことも、逆もできるというわけです。
部品取りのリールをいくつか所有してさえいれば、欠品パーツの心配をせずにいつまでも使い続けることが出来るスピンキャスティングリールなんて、アブマティックくらいなものです。
ベアリングなどどこにも使っていませんが、精巧な使用感は非常に秀逸であり、スピンキャスティングリールで起こりうるあらゆる不具合対策が施された、最高傑作リールだと思います。
ジョンソン社の特許を利用した2桁ナンバーのアブマティック(冗談抜きで、最初期の60と30は、ジョンソン社のセンチュリー100の設計思想が色濃く残っている)から、徐々に改良を重ねていき、100番台のアブマティックが誕生した1960年代前半には、その設計が完成の域に達していること。
オートシンクロドラグ機構を搭載する200番台(270、290)も、それ以外の設計は100番台のままであり、いかに優れた設計であったかを証明しています。
1980年代後半に、最後のフルメタルボディーの1075が登場し、事実上、アブマティックの製造には終止符が打たれました。
1075には、複合セラミックス製のピックアップピンが搭載され、アルミスリーブ付きのピックアップピンは廃止されましたが、堅牢さは全モデル中最高レベルです。
地味なカラーリングのせいで人気が全くありませんでしたが、ストレートグリップでも使いやすいよう、プッシュボタンはローダウン化されています。(ここだけ近代化されている)
このリールは、アンダーロッドの1044シンクロマッチの姉妹機でもあり、部品の共通化が図られています。
ベルカバーに貼付されたシールに、10lb-140ysd、14lb-110yds、20lb‐90ydsと記載されているように、ヘビーラインで用いることが前提のようです。
個人的には最高傑作リールだと思っているのですが、とにかく不人気さ加減もダントツでした。
さて、アブマティックは大きく分類すると、小型モデルと中型モデルが存在しています。(大型と呼んでも差し支えないのは280(80)と290くらいでしょうか?100番台には大型モデルは存在しません)
小型モデルの代表格は、160(140は同型機)を筆頭に、120(個体数多い)、110、130、135、136、141で、110と135以外はシンクロドラグを搭載しています。
中型モデルは170(ハイエンド)、145(ダイレクト)、150(120の姉妹機)、152(150の改良レアモデル)、155(130の兄弟機)の5機種。
200番台の270は170のオートシンクロ版、280は80のオートシンクロ版、290は最大ラインキャパシティーを持つ280の進化モデル。
220と230は廉価版の別設計モデルなので除外、300番台以降も同様です。
先に紹介した1075は100番台、200番台の真の後継機でしたが、これ以降のBLACK MAX等は別設計の廉価版なので、除外します。
小型のアブマティックはコンパクトさもあって使い勝手は抜群ですが、残念ながらクロスラップ機構を持たないため、中型モデルと比較してしまうとやや性能面で劣っています。
やはり中型モデルは大きくて重いですが、これ以上ないほどの完成度を誇ります。
これらの中型アブマティックを超える設計を施されたスピンキャスティングリールは、今後登場するのでしょうか?
可能性を模索すると、以下のスペックが必須項目として挙げられます。
・必要最低限のメタル部位を残しつつ、軽量素材を用いて200gを切る重量への軽量化
・大口径ローターを採用しながらローダウン化させ、ストレートグリップのベイトキャスティングロッドと組み合わせられるようにする
・製造コストを抑え、2万円を切る価格帯を達成する(目標は1万円台前半)
・複合スリーブ構造のダブルピックアップピンの採用
・クロスラップ機構(オシュレーション機構)
さほど技術的には難しくなさそうだと思えるものの、実際にこのような機種が製造されたことは一度もありません。
特に、ワインディングカップの強度と表面の鏡面加工については、国産で実現できるのかが非常に難しいところだと思います。
現に、今も新世代のアブマティックが製造されていますが、オリジナルモデルとは異なる設計が施されています。
それでもハイエンド扱いの新型170は、設計の基本がオリジナルと近しい設計に先祖返りしていることからも、オリジナル170の設計が完成されたものであることを証明しているようです。(新型にシンクロドラグはありません。念のため)
アブマティックを超える。
この課題がクリアされた時、始めてスピンキャスティングリールはそれまでの「使えないリール」とされてきた呪縛から解き放たれるものだと確信しています。
エントリーユーザーがすぐに使えるだけでなく、ベテランアングラーも魅了する、高性能なスピンキャスティングリールは、確かな存在意義を持っています。
それを象徴するかのような、アブマティックの使い手が何人もいらっしゃいます。
自分を含め、スピンキャスティングリールに魅了されたアングラーは、必ずいつかはそれを手に入れることが出来ると確信しています。
トップトウ(当時はトップ党)での最初の『スピンキャストリールズ』の連載記事は、アブマティックでした。(エビスフィッシングがこう呼んでいただけで、アブマチックと呼んでも大丈夫)
クローズドフェイスリール、スピンキャストリール、スピンキャスティングリール、フィックスドスプールリール・・・呼び方は色々、正式名称がどうとかは、好きに呼べばいいと思います。
日本でのこのタイプのリールの印象は非常に悪く、常に初心者用リールだったり、安物のイメージが付きまとっていて、すぐに上級者になりたがる気質を持つ日本の釣り人の間では「使えないリール」、「使っていて恥ずかしいリール」の烙印を押されたまま、1970年代から現在に至るまで、あまりその評価は変わっていない模様。
そんな中スウェーデンのABU社のアブマティックだけは、このタイプのリールの中では別格扱いであり、異彩を放っていたことは間違いないでしょう。
とはいえ、当時の価格帯では国産ベイトキャスティングリールよりも高額だったこともあり、一目は置かれていたものの、やはり人気がなかったことも事実です。(バンタム100のおおよそ1.5倍くらい高価だった)
当時は小学生だったこともあって、単純にデザインとベルカバーの色に惹かれましたね。
国産のクローズドフェイスリールは、オリムピック釣具のものだったり、ダイワ精工のものだったり、リョービのものだったりが一般的に流通してはいましたが、一番人気はリョービのダイナフィッシュかダイワのハイキャストだったかな?
初めてのルアー用リールはクローズドフェイスリールで、その後、ベイトキャスティングリールにステップアップしていくのが当時の通例でした。
実際、クローズドフェイスリールはトラブルレスを謳っていた割には結構ライントラブルがあって、やっぱりバックラッシュはしても「バンタムかファントムの方が格好イイ!」と、すぐにベイトキャスティングリールの方に移行していく流れがありました。
当時の小学生の感覚はそんなものです。
スピンキャスティングリールに魅了されるなんてことは、まずありませんでした。
自分は、しょっぱなからスピニングリールで、クローズドを使う友人たちを横目に、「いつかはバンタムを・・・」と想いを馳せていたものです。
スピンキャスティングリールはそんな小学生時代のイメージのまま、実際に使うことなく中学3年生くらいで釣りから離れていき、大学時代に釣りに復帰した頃には、もはや店頭で見かけることのないリールになっていました。
復帰してすぐ、スピニングリールのトラブルに悩まされていた自分がたまたま手にしたのが、売れ残っていたAbuGarcia社の1044シンクロマッチ。
当時、芦ノ湖の一部のルアーマンが愛用していたこのリールを手にして、小学生時代の記憶が蘇りました。
ABU503に憧れを抱いていたこと、ついでに気になっていたアブマティックを実際に手に入れる機会を得て、これらを時代錯誤も甚だしいのですが使い始めるようになりました。
最初に手にしたのはABU-MATIC170ではなく、ABU-MATIC145でした。
ゴールドのカップに惹かれてオールドタックル専門店で購入。
当時はバスバブル期だったこともあり非常に高額でしたが、美しいリールでとても気に入っていました。
実際に使ってみると、まずストレートグリップのロッドとのバランスが劣悪。
昔よくあったオフセットグリップのハンドルなど皆無、FUJIのガングリップさえ見かけることがない状態で、ストレートグリップでは使い辛いことこの上ない。
それでも無理やり使っていましたが、このタイプのリール全般の特性に気づくこととなります。
まず、リトリーブスピードが非常に遅い。
ギア比が1:3くらいしかないので当たり前ですが、ハンドル1巻きあたりの巻き取り量は50cmもない。
そして、ロースピードの癖に巻き取りトルクもあまりない。
トップウォーターならまだしも、クランクベイトを使えば、巻き取るのにも骨が折れる。
最後に、距離のコントロールは投げる際の力加減次第であり、案外難しい。
キャスト後にプッシュボタンを押し込めばラインは止められますが、飛んでいるルアーが引き戻されるなんてこともざら。
一言で要約すると、想像以上に使い辛いリールでもありました。
使い辛いこのリールを快適に使うには?をテーマに、あれやこれやと色々と試していくことに・・・。(よく途中で放り投げなかったものです)
そこで得られた答えは、
・オフセットグリップにセットすると、急にバランスが良くなってパーミングもやりやすくなる
・スローテーパーのロッドではキャスティングのコントロールが難しくなる
・カーボンシャフトのファーストテーパーの方が圧倒的に使いやすい
・ロンドレングスは6ftが上限で、5.6ftくらいが丁度よい
・ベルカバーごと掴んだパーミングの方がロッドのホールドが安定する
・ラインオリフィスに人差し指を当ててフェザーリングを行えば、キャスティング距離のコントロールが容易となる
・近~中距離のキャストコントロールが秀逸
・遠投にはあまり向かない(やはり他のリールの方が飛ぶ)
・重いルアーは、テイクバック時にスリップするため、片手のみのキャスティングでは上手く投げられない
・プッシュボタンを切って、左手の指でラインを摘まみながらのキャスティング、即ち両手を使ったキャスティングが出来る(=トゥーハンデッド・キャスト)
・障害物廻りでバスを掛けた際、クラッチを切ってフッキングしつつ引っ張り出すことが可能
・シンクロドラグはとても使いやすい
・使用するルアーの上限は重くとも14g程度まで(5~10g前後がベスト)
・巻き抵抗の強いルアーには向かない
・スラックラインの巻き取りがやりづらい
・滑りの良いナイロンラインでないとライントラブルが頻発する
・使用出来るラインの太さは4~20lb(ナイロンライン限定で直径約0.20㎜~0.40㎜程度)
というものでした。
ついでに、他社のスピンキャスティングリールも色々と入手して使ってみたものの、アブマティックを超える使用感を持つリールには未だ出会えていません。
どうしようもないスピンキャスティングリールが多いのも、仕方がないと思います。
理由は単純で、ここ30年(1990年以降)のスピンキャスティングリールに、高級素材や堅牢な設計を施されたリールが存在していないからに他なりません。
オリジナルのスピンキャスティングリールは、ジョンソン社のセンチュリー100と、ゼブコ社のモデル33ですが、最高級モデルは170Seville(ジョンソン社)、33XBL(ゼブコ社)です。
それぞれに優れたリールではありますが、アブマティック170を超えているかと問われれば「そこまで完成度は高くない」と思います。
例えば、ローター廻りの設計に関して、ジョンソン社は固定方法も脆弱なボルト・オン方式(ナット止め)ですし、ゼブコ社も同様です。
ワインディングカップの素材もアルミ合金のような、厚みのない薄いもの。
ラインの抵抗を考慮に入れているとは思えない形状もしています。(アメリカ的な合理的な設計ですが)
また、分解するにあたり、ローター廻りを取り外すのには工具が不可欠である点。
ライントラブルの際は、厄介なこととなる設計です。(ナットを紛失するなど)
その点、アブマティックは、工具なしでスプールまで簡単に取り外すことが出来ます。
現在も、古いアブマティックの利点は非常に多いです。
まず、その個体の残存数。
特にハイエンドモデルでもあった170の現存率は非常に高く、スピンキャスティングリールのことなど良くわからないようなオールドタックル専門店でも、ネットオークションでも容易く手に入れることが出来ます。
部品についても、共通部品が多いため、別ナンバーのモデルからも部品を取ることが出来ます。
言い方を変えれば、大きさが一緒であれば、150のベルカバーを170に組むことも、逆もできるというわけです。
部品取りのリールをいくつか所有してさえいれば、欠品パーツの心配をせずにいつまでも使い続けることが出来るスピンキャスティングリールなんて、アブマティックくらいなものです。
ベアリングなどどこにも使っていませんが、精巧な使用感は非常に秀逸であり、スピンキャスティングリールで起こりうるあらゆる不具合対策が施された、最高傑作リールだと思います。
ジョンソン社の特許を利用した2桁ナンバーのアブマティック(冗談抜きで、最初期の60と30は、ジョンソン社のセンチュリー100の設計思想が色濃く残っている)から、徐々に改良を重ねていき、100番台のアブマティックが誕生した1960年代前半には、その設計が完成の域に達していること。
オートシンクロドラグ機構を搭載する200番台(270、290)も、それ以外の設計は100番台のままであり、いかに優れた設計であったかを証明しています。
1980年代後半に、最後のフルメタルボディーの1075が登場し、事実上、アブマティックの製造には終止符が打たれました。
1075には、複合セラミックス製のピックアップピンが搭載され、アルミスリーブ付きのピックアップピンは廃止されましたが、堅牢さは全モデル中最高レベルです。
地味なカラーリングのせいで人気が全くありませんでしたが、ストレートグリップでも使いやすいよう、プッシュボタンはローダウン化されています。(ここだけ近代化されている)
このリールは、アンダーロッドの1044シンクロマッチの姉妹機でもあり、部品の共通化が図られています。
ベルカバーに貼付されたシールに、10lb-140ysd、14lb-110yds、20lb‐90ydsと記載されているように、ヘビーラインで用いることが前提のようです。
↑ABU-MATIC 1075 前期モデル(右)にはバンパーが付属 |
さて、アブマティックは大きく分類すると、小型モデルと中型モデルが存在しています。(大型と呼んでも差し支えないのは280(80)と290くらいでしょうか?100番台には大型モデルは存在しません)
小型モデルの代表格は、160(140は同型機)を筆頭に、120(個体数多い)、110、130、135、136、141で、110と135以外はシンクロドラグを搭載しています。
中型モデルは170(ハイエンド)、145(ダイレクト)、150(120の姉妹機)、152(150の改良レアモデル)、155(130の兄弟機)の5機種。
200番台の270は170のオートシンクロ版、280は80のオートシンクロ版、290は最大ラインキャパシティーを持つ280の進化モデル。
220と230は廉価版の別設計モデルなので除外、300番台以降も同様です。
先に紹介した1075は100番台、200番台の真の後継機でしたが、これ以降のBLACK MAX等は別設計の廉価版なので、除外します。
↑ABU-MATIC 141+ABUズームグリップ 最もマッチする専用タックル |
やはり中型モデルは大きくて重いですが、これ以上ないほどの完成度を誇ります。
これらの中型アブマティックを超える設計を施されたスピンキャスティングリールは、今後登場するのでしょうか?
可能性を模索すると、以下のスペックが必須項目として挙げられます。
・必要最低限のメタル部位を残しつつ、軽量素材を用いて200gを切る重量への軽量化
・大口径ローターを採用しながらローダウン化させ、ストレートグリップのベイトキャスティングロッドと組み合わせられるようにする
・製造コストを抑え、2万円を切る価格帯を達成する(目標は1万円台前半)
・複合スリーブ構造のダブルピックアップピンの採用
・クロスラップ機構(オシュレーション機構)
さほど技術的には難しくなさそうだと思えるものの、実際にこのような機種が製造されたことは一度もありません。
特に、ワインディングカップの強度と表面の鏡面加工については、国産で実現できるのかが非常に難しいところだと思います。
現に、今も新世代のアブマティックが製造されていますが、オリジナルモデルとは異なる設計が施されています。
それでもハイエンド扱いの新型170は、設計の基本がオリジナルと近しい設計に先祖返りしていることからも、オリジナル170の設計が完成されたものであることを証明しているようです。(新型にシンクロドラグはありません。念のため)
アブマティックを超える。
この課題がクリアされた時、始めてスピンキャスティングリールはそれまでの「使えないリール」とされてきた呪縛から解き放たれるものだと確信しています。
エントリーユーザーがすぐに使えるだけでなく、ベテランアングラーも魅了する、高性能なスピンキャスティングリールは、確かな存在意義を持っています。
それを象徴するかのような、アブマティックの使い手が何人もいらっしゃいます。
自分を含め、スピンキャスティングリールに魅了されたアングラーは、必ずいつかはそれを手に入れることが出来ると確信しています。
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