スピンキャストリールを本気で使うには


トップトウで『スピンキャストリールズ』という連載を20回以上続けていることもあってか、実際に店まで話を聞きに来てくれる、熱心なスピンキャスター諸兄が随分と増えました。
 以前は、「実釣でスピンキャストリールなんて使っているわけがない」などと陰口を叩かれたものですが、今は「本当にスピンキャストリール(を)使ってるんですね」と改めて感心される次第。
 一緒に釣りをしたことのある方に言わせれば、何時でも何処でもスピンキャストリールしか使わないので、他のリールの使い方を忘れちゃったんじゃないの?と心配されたりもします。
 ベイトキャスティングリールやスピニングリールを殆ど使わなくなってしまったので、たまに使うとちゃんと投げられるのか少々不安になりますが、過去に散々苦労して体得したキャスティング技術はそう簡単に錆付くことはないようで、久しぶりにベイトキャスティングリールばかりを使ったフロリダ釣行では、あのヒロ内藤さんから「キャスティングの精度が高い」とお褒めいただいたほどです。
 さて、今回は本気でスピンキャストリールをこれから使ってみたいと考えている、殊勝なアングラーのためのマニアックな内容です。
 ベイトキャスティングリールにもスピニングリールにもない、スピンキャストリール独特の操作感と奥深い性能は、使いこなせばこなすほど、非常に魅力的なものがあります。

タックル考察

<ロッドグリップ>
 1970年代まではストレートグリップのロッドが少なく、リールフットやプッシュボタンの位置が、オフセットグリップとの組み合わせを前提として設計されているため、現行製品よりも腰高になっています。
 1980年代以降のモデルから、ストレートグリップやオフセットのないガングリップとのマッチングを考慮したリールが登場してきますので、特に問題がないのであれば、無理にオフセットグリップを使わなくても良いです。
 基本はシングルハンドルですが、セミダブルハンドルでも特に問題ないと思います。
 お好みでどうぞ!

<ロッドレングス>
 ロッドの長さは、上限が6ftと考えればよく、実際には5~5.6ftくらいが使いやすいでしょう。
 遠投を必要とするタックルの場合なら、6ftを越えるロングロッドや、ダブルハンドルのグリップを用いる場合もありそうですが、そもそもスピンキャストリールは遠投向きのリールではないので、素直にスピニングリールやベイトキャスティングリールに任せた方が良いと思います。

<ロッドのパワー>
 ロッドのパワーに関してですが、リールの特性上、1/2oz(約14g)を超えるルアーはまず投げないので、ULクラス(上限5g)からMLクラス(上限18g)までのパワーが望ましいでしょう。
 汎用性が高いのはMLクラスの方です。
 ロッドアクションを入れていくと、固めのロッドの方が扱いやすいからです。
 5g以下のマイクロルアーをメインで使うのであれば、ULクラスのロッドを選んでください。
 投げづらいロッドではストレスになりますし、小型軽量のルアーを大きく動かすことなど、まず考えられないからです。(動きすぎて水面を割ってしまうため)

<ライン>
 1955年の誕生当初から現在に至るまで、スピンキャストリールに使用するラインは、ナイロン・モノフィラメント一択です。
 小型のリールには4~8lb(基本は6lb)、中型のリールには6~12lb(基本は10lb)、大型のリールには10~20lb(基本は14lb)が最適です。
 滑りがよく、軟らか過ぎず、硬過ぎずのナイロンラインがよく、以前はデュポン社のストレーンが主流でしたが、現在、アメリカのヘビーユーザー達の間で最も支持されているのは、バークレイ社のトライリーンXLです。
 自分も使ってますが、確かにトラブルがなく使い易いラインですよ。

 ここからはラインに関する重要な注意事項です。
 1955年当時はダクロン製のブレイデッドラインが、ナイロン・モノフィラメントラインよりも一般的であったにも拘らず、「スピンキャストリールにブレイデッドラインは決して使用してはならない」と、説明書に明記されていたほどです。
 ジョンソン社のロイド・E・ジョンソン氏も、ゼブコ社のR・D・ハル氏も、ナイロン・モノフィラメントラインを使用することを前提に、スピンキャストリールを設計しています。
 PEラインを使えば、スピンキャストリールは間違いなく壊れます
 スピンキャストリールを長く使いたいのであれば、PEラインを巻くのは絶対に止めるべきです。
 ちなみに、ローラーピックアッピンを装備して、さもPEラインが使えるかのように喧伝している現行製品がありますが、使用耐久テストを長期に渡ってやっているとは到底思えないので、壊さないためにも使わないほうが無難です。
 発生する不具合は、ローターエッジの削れ、ローターの歪み、ピックアップピン付近の削れ、ローターシャフトの変形のいずれか、もしくは全てです。  

片手で投げても着水前は両手でフォロー

 基本的に投げるモーションは、ベイトキャスティングリールと一緒です。
 縦握りのままでも投げられますが、手首を内側に90度ひねり、手の甲を上に向けたほうがより楽に投げられます。
 プッシュボタンでのサミングは非常に難しいので、着水前に利き手の逆の手でベルカバーを包むように握り、ラインオリフィスから出ているナイロンラインに人差し指の腹をあててフェザーリングする方が、キャスティング距離のコントロールが格段にやりやすくなります。
 また、ルアーの重量が1/2ozを超えてくると、プッシュボタンを押し込んでいてもテイクバックの際にラインがスリップすることがあり、うまくキャスティングすることが出来ません。
 その場合は、事前に利き手の逆の手の親指と人差し指でラインをつまんでおき、プッシュボタンを押してラインピックアップを事前に解除しておきます。(ラインを指でつまんでいれば、ルアーは落ちない)
 テイクバックからフォアードキャストに移行する際に指でつまんだラインを離せば、上手くキャスティングすることが出来ます。
 ゼブコ社から発行されていた「Basic Casting from A to Z」というキャスティングの指導手引書の中で、『トゥー・ハンデット・キャスト(両手キャスト)』はスピンキャストリールで行う最良のキャスティング方法と紹介されています。

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 「Basic Casting from A to Z」では、利き腕の逆の手はロッドのフォアグリップを握るよう指示されていますが、現在のロッドの殆どがフォアグリップが短くなってしまっているため、リールのベルカバーをホールドする方がやりやすいでしょう。
 『トップスナップ・キャスティング』という名称でこの方法を紹介されている方がいますが、実際は少し異なります。

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 これは鎌倉書房から発行された井上博司氏監修の「スポーツノート3フィッシング ルアー&フライ ニジマスへの挑戦」というムックの中で紹介されていたキャスティング方法で、スピンキャストリールの『トゥー・ハンデッド・キャスト』について書かれたものではなく、あくまでもロッドのベンドを最大限に利用したキャスティング方法として紹介されています。
 まあ、どう呼んでも構わないのですが、「Basic Casting from A to Z」でサイドキャストを行う際にも『トゥー・ハンデッド・キャスト』を行っていることに注目してください。

シングルハンドで投げる方法は間違いではない

 「プッシュボタンを押してキャストするとラインが痛むからダメだ」とか言われちゃうと、「その論法だとプッシュボタンを押した時点でラインに傷がつくからダメじゃん」と、ツッコミたくなります。(ピックアップ解除の際は、必ずローターを押し出しながらラインを挟むため)
 そもそも、ジョンソン社もゼブコ社も、スピンキャストリールを開発した時点で、ラインをローター(ワインディングカップ)のエッジや、ベルカバー内部にローターごと押し付けることは決定事項であり、片手でキャスティングすることを前提に設計されていたことは疑いようのない事実です。
 問題は、キャスティング後の距離のコントロール方法についてであり、ゼブコ社はフェザータッチコントロール(すぐに廃止される)を組み込んでみたり、ジョンソン社はアキュキャスト機構(後に廃止される)を組み込んでみたりと、この問題については各社が数十年に渡り、相当に難儀して色々とやってみたものの、ギミック的には解決できなかったのです。
 結果的に、件の『トゥー・ハンデッド・キャスト』が、最も確実なキャストコントロール方法であると結論付けられ、使い手の技術でフォローする形となって決着したというのが興味深いですね。
 各メーカーのスピンキャストリールの使用解説は、必ずシングルハンドキャストを紹介していますが、是非ともやってみて欲しいのは、スピンキャストリールを使ったフリッピングとピッチングです。
 このリールほど、フリッピングとピッチングに適したリールはありません。
 片手でルアーを持ち、利き腕でロッドを振り込めば、プッシュボタンが途端に使いやすいものとして感じられるはずです。
 特に、フローターの場合では、無類の使い勝手の良さを発揮します。
 別にワームやラバージグある必要はありません。
 トップウォータープラグや、クランクベイト、スピナーベイトでもバズベイトでも何でも出来ます。
 我々がスピンキャストリールを使って楽しんでいる理由の大半が、実はここら辺の使い勝手の良さにあるのです。

糸撚れ対策も使い手の技術でフォロー

 ルアーを目的の場所にキャスティングできました。
 あとは巻くだけ!みたいな解説はしません。
 リーリングする際の持ち方にも工夫がありまして、基本はリールをパーミングして使います。
 右ハンドルのリールの場合は、左手でリールをパーミングしますが、ラインオリフィスから出ているナイロンラインを、左手の人差し指と親指でやさしく摘まみながら、リトリーブすることが重要です。
 スプール逆転式ドラグや、ローター逆転式ドラグであっても、スピンキャストリール最大の問題は糸撚れです。
 これを使い手の技術で防ぐ方法こそ、ラインを直接指で摘まむことなのです。
 昔、やたらとスピンキャストリールのリーリングする際の写真には、このポーズばかりが掲載されていましたが、何のためにやっているのかの解説を見事にすっ飛ばしてくれたおかげで、ずっと意味不明のままでした。
 以前から何故にこの形のポーズを取るのかかが不思議でなりませんでしたが、要するにこれは完全に糸撚れ対策のポーズだったのです。
 毎回やらないでもいいと思いますが、たまに、気がついたらやってみると、糸撚れも取れてトラブルがありません。

現行製品よりオールドモデルの方が高性能

 悲しいかな、「スピンキャストリールなんて初心者にも使いづらいし、ド変態しか使ってない」なんていう失礼極まりない記事がネット上で溢れてますが、現行モデルのスピンキャストリールしか使ったことがないのなら、そう感じるのは仕方がない、と思います。
 今、アメリカで最も高額で、高性能なスピンキャストリールは、ゼブコ社のブレットZB3でしょう。
 価格は99.95ドルですが、これは現在のアメリカで販売されている一般的なベイトキャスティングリールと同じ価格帯です。(ちなみにシマノとダイワの製品は別格扱いで、もっと高価です)
 1956年から1982年の間には、スピンキャストリールのハイエンド・モデルがいくつも存在し、特に1976年に登場するゼブコ社の33XBLは、現行製品のブレッドZB3よりも100g以上も軽量な上により高性能なのです。
 同じメーカーの製品で、しかも40年以上も前のモデルの方が優秀である理由が、殆どの方にはまるで理解しがたいものだと思います。
 一言で言ってしまえば、1976年の33XBLの設計生産技術は、現在では失われてしまったもの(ロストテクノロジー)だからです。
 スピンキャストリールの技術の終焉は1982年とされていますが、アメリカが長きに渡って培ってきたリール設計の技術が失われたタイミングと一致しており、その頃までのスピンキャストリールには、信じられないほど高性能で高精度のリールがゴロゴロしています。
 皆さんにも是非、現行の廉価なスピンキャストリールではなく、高性能なオールド・スピンキャストリールを使ってもらいたいですね。

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