ダイヤモンドリール

  ダイヤモンドリールは、かつて埼玉県川越市に存在した『株式会社大森製作所』が製造販売していたスピニングリール。

 確実に我々世代(1971年生まれ)よりも年上のアングラー以外は見たことも触ったこともない筈。

 それにもかかわらず、自分よりも若いアングラーが『したり顔』でダイヤモンドリールを語ることに違和感を感じてしまう。

 自分がスピニングリールを使った釣りを始めたのは10歳からだが、1981年当時の位置づけは、1位ダイワ精工、2位シマノ、3位オリムピック釣具、4位リョービ、5位大森製作所という感じで、国産リールメーカーの位置づけとしては下位の方にあったことは紛れもない事実。

 当時はTVアニメの釣りキチ三平のおかげで釣りが大ブームとなっていたこともあり、全国の少年たちは例外なく釣りを経験していると思う。

 ただし、リールを使った釣りだけはハードルが高かった。

 鯉の吸い込み釣りや、海の投げ釣り、そしてルアー釣りは、釣りに魅了されてハマった少年たち以外はやらない。

 リールだけでもダメ、竿だけでもダメ。

 道具を手に入れるだけでもハードルが高く、色々とやってみたかった自分は、ルアーにしか向かないベイトキャスティングリールやクローズドフェイスリールではなく、おのずとスピニングリールを選択することに。(地元の釣具屋店主の受け売りだが)

 低価格で頑丈、汎用性の高いリールとして選ばれたのは、ダイワ精工の『スプリンターST-900』。

 『スプリンター』という製品名は、かつて存在したロディ釣具(稲森製作所)が製造していたスピニングリールの商品名そのままであり、1970年ダイワ精工にリール設計部門が買収(事業統合)され、『スプリンター』の名がダイワ精工のスピニングリールに引き継がれたそうだ。

 『スプリンターST-900』には色付きの5号のナイロンラインを巻かれ、同時にダイワ精工の『ロイヤルキャスト55L』というルアー用ロッドが選ばれた。
 後日、ダイワ精工の投げ竿(2m)も手に入れ、海の投げ釣り、鯉の吸い込み釣り、ルアーにと、このリールは今では考えられないほど多用途で酷使されることとなる。

 しかし、本当に欲しかったのはこのリールではなく、シマノのベイトキャスティングリール『バンタム100』だった。

 しかし、リールは勿論のこと組み合わせるガングリップのロッドも高額で、到底小学生の小遣いごときでは買うことが叶わなかった。

 『完本釣具大図鑑』に掲載されていた『ABU503』の美しさに惹かれたが、高額で手が出ない。

 他のページにあるベイトキャスティングリールも、ミッチェルやアブのスピニングリールも、気が遠くなるほどに高額だった。

 そんな中、何とか買えそうな値段で掲載されていたのが、ダイヤモンドリールだった。

 『スプリンターST-900』は¥1,500

 ダイヤモンドリールで最も安価な『コメットGS』は¥4,400

 同社でベストセラーとなった『マイコン』はその倍近い値段がしていたので、コメットがどれだけ安価なリールだったかは想像に容易い。

 しかし、小学生の小遣いで買えるレベルではなかった。

 なにせスプリンターST-900の約3倍の価格。

 ヘドンのルアー1つが¥1,500くらいした当時、月の小遣い¥500では途方もなく先の話になりそうな感じ。

 ちなみにバンタム100は¥10,740

 閑話休題、ダイヤモンドリールを実際に手に入れたのはそれから10年以上経った1993年頃のことで、1992年に大森製作所が倒産した後というのが何とも悲しいが、埼玉県の志木市にあった古い釣具屋で埃をかぶっていた『コメットG1』と『コメットGS』、『オートベールミニ』、『キャリアNo.1』と『キャリアミニ』、『タックルオートSS』を手に入れた。

 当時は釣りに復帰したてで、小学生の頃欲しかったものをやたらと買い集めていた時期だったが、ダイヤモンドリールは想像していたよりも遥かに性能が高いことを思い知った。

 特にドラグ性能には驚愕した。

 スプリンターST-900はお世辞にもドラグ性能が高いとはいえず、単純に締め込むだけで、スムーズさのかけらもないのだが、上記の全てのリールのドラグはとてもスムーズだった。

 また、ハンドルの巻き心地が軽やかであり、ガタが非常に少ない。

 スプリンターST-900がただの安物にしか見えなくなった。

 リールのサイズ展開については当時あまり良く解っていなかったが、ダイヤモンドリールで最も小型サイズは『ミニ』で、『SS』、『No.1』、『No.2』と徐々に番号が大きくなり、『No.3』以降は海の大物釣り用となる。

 ルアーフィッシングに適しているサイズは『ミニ』からせいぜい『No.2』くらいまでだが、サイズ感だけでなく、インスプールかアウトスプールか、外蹴りか内蹴りか、ギア形式の違いなど、それぞれのシリーズの特徴が見えてくる。

 1980年までのダイヤモンドリールのハイエンドモデルは、ウォームギアを搭載したモデルだった。

 1979年発売の『スーパー7』、このリールこそがウォームギア搭載のアウトスプール型の最終形態で、前身のプロラインNo.1の外蹴り方式ベイルリターンから内蹴り方式(オートベール)化に変更されている。

 現在もインスプールやアウトスプールの『カーディナル(33、3、52)』と比較されることがあるが、正直言ってダイヤモンドリールの方が圧倒的に性能が高いと感じた。

 操作感が軽快で、洗練されているのだ。

 後にウォームギア搭載型インスプールタイプの最終形態である『プロラインNo.101』も手に入れたが、これも優秀であり、周囲のマニアが何をもって『カーディナル』が良いと言っているのか意味がさっぱり解らなかった。(舶来品至上信奉だから仕方がない)

 ただし、ダイヤモンドリールでも絶賛すべきはこの頃のリールのみであり、1974年以前のモデルに関しては、野暮ったさを否めないラフな操作感だったことを追記しておく。

 1980年登場以降の『マイコン』シリーズは1台も所有したことがないので、操作感は解らない。

 また、『タックルオート』の後継機の『キャリア』シリーズは樹脂化された軽量リールではあったが、操作感も安っぽくなってしまったので、自分は『タックルオート』の方が好きだった。

 『キャリアMk-2』と、以降の末期モデルである『キング』シリーズも『ミニ』と『SS』を手に入れて使ってみたが、軽快さが失われており自分の好みには合わなかった。

 1997年に登場したマミヤOPの『オースターSS』を使い出した頃、管理釣り場では最小サイズの600ですら重く感じて、再び『タックルオートSS』を使うようになった。

 更にラインを3lbに細くして、『コメットGS』や『オートベールミニ』を使うようになったら完全にダイヤモンドリールから離れられなくなった。

 しかし、2000年に入ってから200gを切る新製品の小型スピニングリールが続々と登場し、2005年にダイワ精工の『プレッソ』、『ソルティスト月下美人』を手に入れてからは、インフィニット・アンチリバースのないダイヤモンドリールは管理釣り場の大会では使わなくなったが、管理釣り場のトーナメントがその後大人気となり、大会に出られなくなってからは、再びダイヤモンドリールを使うようになった。(エントリーすらも出来なくなるほどトーナメントは大人気だったが、それまで和気あいあいとしていた大会が、急にギスギスしてきたことで冷めてしまった)





 今も手元にいくつかのダイヤモンドリールが残っているが、古いダイヤモンドリールには、今のリールが失ってしまった操作する楽しさが残っていて、とても心地よい。

 1970年代末期のリールが今でも快適に使えるだなんて、なんとも痛快な話しだと思わない?

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