ダイヤモンドリール最期のハイエンドモデル

 今から30年近く前の話だが、1970年代以降のダイヤモンドリールを熱心に集めていたことがある。
 各地の古い釣具屋を探訪しつつ、カタログや書籍に掲載されていたものを探して購入する(当時はまだ中古釣具店というものがほぼ存在していなかった)のだが、サイズ表記はもちろん、シリーズ名を知らないリールも沢山あり、蒐集にはひどく難儀した。
 当時は何故かリアドラグの『マイコン』シリーズを毛嫌いしていて、一台も購入しなかったのだが、随分ともったいないことをしたと今は思う。
 1990年代までは、まだ売れ残りのリールを随分と見つけられたものだ。
 所有していたカタログで答え合わせをしつつ、実際に使ってみて自分なりに各モデルを評価するのが楽しかった。
 手に入れたリールのサイズは殆どが「ミニ」から「No.1」サイズで、陸っぱりのシーバス用にと「No.2」も3台ほど手に入れた。(流石に「No.3」サイズ以上は大きすぎたために購入していない)

 初めてダイヤモンドリールの実機を見たのは1980年頃の事で、近所にあった釣具店でだったが、色々とある中でも一番格好良く見えたのは『スーパー7』だった。
 『オートベール』の高級感あるデザインも美しかったが、「ダイヤモンドリールは真っ黒いリール」という印象を強く受けたのは、間違いなく当時の『スーパー7』と『タックルオート』と『コメット』に施されたマットブラック塗装の影響だと思う。

 それから約10年後に初めて手に入れることとなったダイヤモンドリールは、古びた釣具店の片隅に売れ残っていた『タックルオートSS』と『コメットGS』と『コメットG1』の3台だったが、それを皮切りに、『オートベールミニ』、『マイクロ7CS』、『マイクロ7C1』、『マイクロ7C2』、『キャリアミニ』、『キャリアSS』、『キャリアNo.1』、『キャリアNo.2』、『プロラインNo.101』、『スーパー7No.2』、『マイクロ7VS』を次々と手に入れた。
 最も愛用したのは、最初に手に入れた1979年モデルの『タックルオートSS』と、そのインスプール版の『コメットGS』だった。
 その後の時代の『マイクロ7(CS/C1/C2)』も、『キャリア(ミニ/SS/No.1/No.2)』も使ってみたが、カーボンボディーには何処となく安っぽさが感じられてあまり好きになれなかった。
 ウォームギアでインスプールの『プロラインNo.101』と『スーパーセブンNo.2』の操作感には感動したが、管理釣り場で使うには流石に大きすぎた。
 管理釣り場で使うには、『ミニ』か『SS』サイズが最適だったのだ。

 そんな数あるストックの中に、いつしかダイヤモンドリール終焉期の『Diamond King-SS』が加わっていたのは、所有していた1991年カタログにある最上級モデルだったからだろう。
 1988年に『TURBO』というリールが登場しており、『Diamond King』は『TURBO』とデザインが瓜二つで、その高級版に見えなくもない。
 ただし、この『Diamond King-SS』は、他のダイヤモンドリールとは何やら様子の違うリールだった。
 手に入れたのは1990年代末期頃で、その頃は既にマミヤOP製のスピニングリール(オースターSS、エイペックス、リベロRS、メガキャストMX)を使い始めていた頃である。
 マミヤOPが1997年以降にリリースしたスピニングリールたちは、当時のシマノ(ツインパワー)やダイワ精工(トーナメントX)の中級グレード以上のスピニングリールと比較しても、明らかに性能が上だった。
 特に最上位機種のエイペックスは別格であり、当時のトーナメントZやステラとは全く異なるコンセプトで設計された非常に優れたスピニングリールだったのだが、最小サイズの600番台でさえもダイヤモンドリールのNo.1サイズよりも大きく、そしてフルメタルボディーが災いして非常に重かった。(カタログ上の重量は270g)

 管理釣り場で意気揚々と使い始めたエイペックス600だったが、いつしかダイヤモンドリール(タックルオートSSやコメットGS)の方に戻してしまった。
 こと管理釣り場においては、軽量コンパクトで軽快な操作性をもつダイヤモンドリールの方が圧倒的に有利だったのだ。
 実際に何度か上位入賞したときも、古めかしいダイヤモンドリールを使っていたことがそれを証明している。


 閑話休題、その『Diamond King-SS』だが、操作感は当時最新鋭だったマミヤOP製スピニングリールたちによく似ていた。 
 この時代はまだ、ダイワ精工以外のスピニングリールはまだロングスプールが全盛だったこともあるだろう。
 マミヤOPの新鋭スピニングリールも勿論ロングスプールだが、『Diamond King-SS』はそれより6年以上も前のリールであるにも拘らず、操作感にあまり差異がないということに驚かされた。
 ただし、先祖返りしたような打突式のベール返しに象徴されるように、その機構はダイヤモンドリールというよりも、むしろダイワ精工のリールにそっくりだった。
 ダイワ精工のスピニングリールに『ウィスカートーナメントSS』という名機が存在したのだが、『Diamond King』シリーズの外観はこのリールによく似ていた。
 コイル式ベールスプリングも、ロングスプールもそっくりだ。
 フラットワインディング機構についてはダイワ精工のパテントを使用していることがカタログにも明記されている。

 『Diamond King』シリーズは、いうならばダイヤモンドリールがブラッシュアップした『ウィスカートーナメントSS』だった。
 この時点(1991年時点)でのスピニングリールの最高峰は、ダイワ精工の『トーナメントEX』だったことは紛れもない事実。

 ダイワ精工の特許技術を使ってでも、ダイヤモンドリールが最高級スピニングリールを発売したかった想いが今となっては良くわかるが、当時はダイヤモンドリールらしさをまるで感じられなくて、あまり使い込むことなく手放してしまった。
 もう手に入ることはないだろうと思っていたが、縁あって再びデッドストック品を手にしてしまう。
 まるで「汚名を晴らしてくれ」と言わんばかりの再会。

 ダイヤモンドリール自慢のオートベール機構ではなく、あえて外突き式ベール返しを採用したのは、コイル式ベールスプリングが強力で、同社の得意とするオートベール機構では、ベールがうまく返らなかったためだということが推察される。

 さて、曇りなき眼で改めて『Diamond King-SS』を見つめると、やはりこのリールは非常に優れたリールであると評価せざるを得ない。
 多板式テフロン製ドラグによる強力なドラグ性能はもちろん、回転のバランスの優秀さはハンドルを回しているだけでよくわかる。(これはダイヤモンドリール全般に言える)
 参考までに、1991年のダイヤモンドリールのカタログに記載されたDiamond King(ダイヤモンドキング)の説明を本文そのままに記載しよう。

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DiamondKing
ダイヤモンドキング 5機種

リールは釣りの道具であるとともに、手にする釣り人の個性を表現する物。
ダイヤモンドキングはルミナス・パールホワイトのボディと気品のあるゴールド仕上げの印象的な外装に伝統のメカニズム、最新の素材・工作技術の粋を凝らした最高級スピニングリールです。

■ピニオンギアとドライブギアの左右及びウォームギアに計4個のステンレススティールボールベアリングを搭載したハイグレード設計。

■ダイワ精工株式会社PAT.No.1817315のフラットワインディング機構(ロングストローク平行捲機構)を内蔵。

■ドラグメモリー(ドラグ張力をダイヤルで表示)付きテフロン製ドラグ。

■ボディはウイスカーチタンを配合した強力軽量素材。

■ラインローラーはセラミクス製で、表面をチタンゴールドコーティングし摩擦抵抗を極限まで押さえています。

■シャンパンゴールドの美しい鍛造強化ロングスプール。ミニ・SS・No.1には替スプール(シルバー)1個付き。

■スクリューやハンドルグリップシャフトなどの金属部分に金メッキを多用。

■繊細な釣り状況での使用にラチェット音のしないサイレントストッパー機構。

■木製グリップ付。便利なワンタッチ折り畳みハンドル。

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 当時は内部機構まで見ることはなかったのだが、今回、分解整備をしてみて驚愕した。
 このリールは紛れもなく最上級のダイヤモンドリールだ。
 それまでのカム式並行捲機構を廃し、ウォームギアによるフラットワインディング機構を採用したのも、『Diamond Kingが後世に残る傑作リールとなるように』との開発者の純粋な願いがあってこそだろう。
 取扱説明書の一言一句にも、メーカーの想いが溢れている。
 最近は涙腺が緩くなってきていけないな。
 もともと道具を傷をつけたりすることには嫌悪感があり、道具を大切に使うのは当たり前だとさえ思っているので、このリールはこれからも傷をつけられることなく使われるだろう。
 最新鋭のハイエンドリールには当然魅力があるとは思うけれども、これほどまでの製品への愛情は流石に感じられない。

 汚名返上、名誉挽回。

 ダイヤモンドリールはやはり素晴らしいリールである。

※2023年5月、縁あってM×3台、SS×2台、No.1、No.2、No.3各1台と、全ラインナップが一挙に手元に揃ってしまうという奇跡が起こる。
 全てのラインナップを集めてくれ、とリールから懇願されたような気がしないでもない。

 ついでに元となったTURBO-SSのデッドストックまで手に入れてしまった。
 この2機種の関係について独自に研究した結果を、近々発表できる日も近いと思う。

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