マミヤOPにまつわる思い出

  以前、マミヤOPに出入りする業者であったことを何処かに書いた気がするが、電子半導体部品商社の営業マンが釣具メーカーにわざわざ営業に行く意味が良くわからないと思う。

 自分も最初はそう思ったのだが、電動リールのモーター制御や液晶パネルに半導体が使われるようになったことが、取引を始めることとなった理由らしい。

 当然、元々オリムピック釣具時代は電動リールの設計者に営業するしかなかったらしいのだが、マミヤ光機と合併してマミヤOPとなって以降、釣具とカメラ以外にパチンコの玉貸し機や宅配ロッカー等の製品を設計製造していたので、普通に産業機器メーカーという感覚で営業していたのだった。

 とはいえ事業部は違えども、元々釣り好きでオリムピック釣具(オリ釣)に入社した設計者は多く、商談の合間に釣り談義をするのがとても楽しかった。

 本格的にマミヤOPの製品を購入するきっかけとなったのも、メーカーの技術者さん達から直接製品PRされるようになったせいだろう。(逆に営業されたのだった)

 流石に全てのリール設計者と会ったわけではないが、発売されたばかりの新型スピニングリール(『オースター』や『エイペックス』)の設計にまつわる話や、フィンノールとの業務提携によって新設計された『エイハブ』のメガドラグや、アブガルシア社のベイトキャスティングリールについてのオフレコ話をいくつか聞かされていた。

 マミヤOPの関連会社で、『復刻版カーディナル33/44』を作っているのを目の当たりにしたときは度肝を抜かれた。

 「メイド・イン・スウェーデンじゃないじゃん!」

 1980年代前半から2000年までのアブの製品の殆どは日本製(マミヤOPの協力会社製)で、特に1993年以降のマシンカットフレームの『プロマックス』や『シルバーマックス』は相当に性能が高くなっていて、設計者たちの評価もすこぶる高かった。

 新型の『モラムSX』シリーズは最初の『Hi-Speed』だけは無駄のない素晴らしい設計で、『MAGシリーズ』はコストダウン主体の設計となってあまり勧められないと聞かされた。

 『UC4600/4601C』シリーズもピラードフレームのアンバサダーとしては至高の出来だそうで、「『UC4601C 2D2』を最初に買った」と言ったら、「一生使えるから大切に愛用して」と感謝された。

 あと、90年代末期にやたらと左ハンドルのクラッシックレプリカ(1601C、2601C、5501C)が登場した理由は、マミヤOPのアブガルシア社製品企画担当が左ハンドル使いであり、自分が使いたいからという理由で製品企画を通したらしい。

 私的な理由でも、これはありがたい話だった。

 さて、話を戻すがスピニングリールの『オースターSS』は同社としては異例なほどの売れに売れまくった製品だったが、実際には採算度外視で販売したために大した利益にならなかったそうだ。

 というのも、市場価格では8,000円を切る勢いで、競合他社の2万円クラスと同等の性能を誇り、これまで長く低迷していたマミヤOP(オリムピック釣具)のスピニングリールのイメージを向上させるために作られた戦略商品だったからだ。

 これを踏まえ、ハイエンドリールの『エイペックス』を市場投入したのだが、1997年当時として世界最高の性能を誇っていたことは間違いないと思う。

 ただし、このリールはいろいろと間違えた方向にもコストが掛けられており、フルチタンベールやらフルチタンシャフトやら、高コストとなるチタンをありとあらゆるパーツに使いすぎていた。

 また、フルメタルボディーであるせいで、競合他社製品と比べると明らかに重かった。

 その後、末期となる1999年にソルトウォーター用の『メガキャスト』、ミッドレンジの『リベロ』、『デュロ』をリリースしたのだが、発表と同時に釣具事業からの撤退が発表されたために、実際の製造数は当初の計画よりもかなり少なかったらしい。

 また、軽量、高性能化を図った新型『エイペックス2』はほぼ完成の域に達しており、発表間近であったことを聞かされていたので、あと1年釣具事業からの撤退がずれてさえいれば、シマノの『98ステラ』やダイワの『TD-Z』を超えた高性能機『エイペックス2』を手にしていたかも知れないと思うと非常に残念だ。

 エンジニア達からは色々な興味深い話を聞いたが、一番印象に残っているのは、ドラグ機構に関する各メーカーによる設計思想の違いについてだった。

 そもそもリールのドラグ機構は、リールの破壊防止装置という意味合いが強いという説明を聞いてとても驚かされた。

 ダイワ精工のドラグ設計思想は、ある負荷が掛かったらドラグが作動することとしているため、魚が止まらない(ストッピングパワーがない)のは当たり前。

 シマノはスムーズに動作することを設計思想に掲げているが、そもそもドラグ力が不足しているのでやはり魚が止まらない。

 自社(マミヤOP)のドラグ機構は、魚を止めることを最大目的としているため、エイペックスでは小型モデルにも多板のドラグワッシャーを組み込んでおり、淡水魚であれば2mも走らせれば魚は止まると説明された。

 これは実際、後に芦ノ湖での大型レインボーやブラウンの突進をすぐに止めることが出来たことで実感した。

 「リョービはダイワやシマノよりも、どちらかと言えばウチ寄りのドラグ設計だな」と笑っていたが、核心をついていたと思う。

 冷静に考えれば、この考え方は1970年代のダイヤモンドリールのドラグ設計と同じだったが、この時、既に大森製作所は存在していなかった。

 リールについての興味が強くなった出来事だった。

 そういえば、アブマティックのレフトハンドルモデルの話を聞いたのもここでだった。

 今、立派なリールマニアに成長したのは、いろいろな話を聞かせてくれたマミヤOPのエンジニアの皆さんのおかげだと思う。

 皆さん、もう仕事からは引退されているでしょうが、今も元気でいらっしゃるであろうことを心より願います。

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