A.C.PLUG
日本のバスフィッシング・シーンでは未だビッグベイトというジャンルが存在していなかった1999年冬。
読み漁っていた様々なバスフィッシング関連の書籍の中に、巨大なジョイント・プラグがビッグバスの口にぶら下がった衝撃的な写真を目にして度肝を抜かれた。
ブティック社から発行された『バスフィッシング上級者への道』は、『ヒロ内藤のハイパーバッシン』と並び、自身のバスフィッシングの概念を根幹から変えた書籍だった。
何としてでも手に入れたいと願ったその巨大なジョイント・ルアーの名は『A.C.PLUG』。
自身にとって、ビッグベイトを探究する切っ掛けとなったルアーだった。
複数種類が存在したA.C.PLUG
それまで写真でしか見たことのないこの巨大なルアーを実際に初めて見たのは、確かハンクルの泉さんの店(今のショールームより以前の店)だったと思う。
3階の店舗にオブジェのように飾られていたのは、確かブルーストライプのフレッド・アーボガスト社製のA.C.PLUG。
それだけでもインパクトは大きかったが、件の書籍には「オリジナルはハンドメイドの木製」と明記されていて、量産されたA.C.PLUGは発泡樹脂製でオリジナルよりもはるかに軽量だったことを後に知る。
当時はインターネットで調べることなど不可能で、情報収集には非常に難儀した。
当然ながらアーボガスト製の量産型A.C.PLUGは手に入れていたが、何か満たされない思いがあり、やはりオリジナル・モデルを何としても手に入れなくてはならないという妙な焦燥感があった。
高額だったオリジナルA.C.PLUG
ヤフーオークションやebayのお陰で、一般人が釣具を売買できるようになり始めた時期と重なるが、オリジナルの木製A.C.PLUGがどうしても欲しかった自分は、海外通販(購入代行業者)を初めて利用する。
『南カリフォルニアのタックルショップでは普通に売っている』という情報を頼りに、カリフォルニアにあったフィッシングツアー会社にメールで購入依頼をし、送料手数料諸々合わせて確か200ドル以上支払い、3週間ほど経って届いたのが、レインボートラウト・カラーのオリジナル・モデル12インチ、9インチ、A.C.MINNOWの9インチ。
本物のA.C.PLUGを手に入れた感動は筆舌に尽くしがたいものがあり、とても興奮したことを今でも覚えている。
さて、果たしてこの140g近い巨大なジョイント・プラグを投げられるロッドがあるのか?という問題があったが、テンリュー製の8フィートのヘビーキャロライナリグ用ロッドで、投げ竿のように使えば何とか放り投げられるはずと、その年の初夏の芦ノ湖でA.C.PLUGのデビュー戦を敢行することにした。
驚愕の出来事が眼前に
「A.C.PLUG以外は使わない!」と、他のタックルは封印し、8ftのヘビキャロ用ロッド、AbuGarcia製ProMax5600Cには30lbのナイロンラインを巻き、満を持して白浜の手前にかつては存在していた桟橋のワンド奥に向かって、12インチのA.C.PLUGを軽くキャスト。
想像以上の飛距離(いきなり40m以上は飛んだ)でド派手に着水した後、心を躍らせながら初めてA.C.PLUGをリトリーブし始める。
当然ながら12インチのA.C.PLUGの巻き抵抗は、想像していた以上に重かった。
ダーターのような先端形状によって少しだけ潜り、テールで水面を搔き乱しつつ艶めかしく泳ぐその姿は、放流したてのレインボートラウトの泳ぎそのものだった。
一目で、釣れそうだ!との期待を抱かせるのに充分だったが、それだけでは終わらず。
ふいに右手の桟橋の方から複数の魚影がA.C.PLUGに向かって泳いでくるのが見え、それらはざっと40cmを超える良サイズだったのだが、その中でも最も大きな魚影が急加速していきなりA.C.PLUGに食らい付いたのだ!
水面が爆発したかのような派手な水柱と、「ボガッ!!」という破裂音。
ジャンプさせたらバレる。
ロッドティップを水中に突っ込み、引き味も何もあったものではないゴリ捲きのまま、瞬時に抜き上げた。
直感で50cmは確実に超えているとは思ったが、計ってみると体高のある53cmのバス。
ファーストキャストでいきなりこのサイズ。
想像をはるかに超える出来事に、混乱と興奮とがごちゃ混ぜになりながら、ボートの上で歓喜の雄叫びを上げたのだった。
スレるのも早い
多分、芦ノ湖で最初に実釣投入されたビッグベイトだったはず。
投げればワラワラとバスが湧くように現れては、A.C.PLUGを追尾するシーンを目の当たりにするのだが、何度もバイトはあったものの最初に釣れたバス以外は全てファイト中にバラし、ビッグベイト特有の問題点を同時に思い知らされることとなる。
まず、基本的にバスは興味を持ってA.C.PLUGを追尾してくるが、バイトにまで至るバスは少ない。
複数尾が追尾していれば確率は上がるが、一尾だけだとどうしてもA.C.PLUGまでの距離が詰められない。
途中でリトリーブを止めれば興味を失って引き返してしまう。
リトリーブスピードを緩めても興味を失ってしまうことが多く、どうすればバイトに至るのかをその場で検証する形に。
追尾するバスが複数尾で距離が開いている場合、リトリーブスピードを徐々に上げることでバイトの可能性を大幅に上げることが出来た。
しかし、問題はそれだけではなかった。
巨大なトレブルフックのフッキング率が悪いことと、途中でバレてしまうリスクが非常に高いことだった。
強いフッキング・モーションを取れば、途端にすっぽ抜けてしまう。
ジャンプさせればフックアウトしてしまい、水中にロッドティップを突っ込んでゴリ捲きする以外に良い方法が浮かばない。
また、オリジナルモデルは泳ぎ出しがあまり良くない。
ダーターヘッドのオリジナルモデルは水を噛むのにコツが要り、最初にトゥイッチで水中にノーズを突っ込ませないとアクションし始めてくれないのだ。
同時に手に入れていたA.C.MINNOWの方は、泳ぎ出しが非常に良かったが、ジョイントの隙間部分が狭く、アクション的にオリジナルモデルよりも大人しかったのが気に入らず、あまり使うことはなかった。
最も驚かされたのが、強すぎるインパクトのためか、同じ場所に投げるとバスの反応が悪くなる、極端に言えば反応が無くなってしまうことだった。
サーチベイトとしては優秀だが、最初のキャスト&リトリーブでバイトさせられなければ、その場所での効果を失ってしまう危険なルアーだったのだ。
それぞれのサイズと特徴
2001年頃にルーハー・ジェンセンから量産A.C.PLUGが発売され、再び驚くこととなる。後にレインという会社が正規代理店契約を結び、ビッグベイトブームの最中、日本国内でも本家のウッド製A.C.PLUGが容易く手に入れられるようになった。
最初に入荷したものはさほどでもなかったのだが、途中から驚くほど粗雑な製品が大量に輸入販売されるようになり、以来「A.C.PLUGは非常に雑な造りなのが普通である」とされてきたことには強く異論を唱えたい。
というのも、自分の所有する2000年以前にアラン・コール氏の手によりハンドメイドされたと思しきオリジナルA.C.PLUGは、全て手の込んだ塗装を施され、造形的にも整った物ばかりだからだ。
これはひとえに日本から新規に大量のオーダーを受けたことで、出来の悪いB級品も含め、簡易的に仕上げたものを出荷したためだと思われる。
しかしながら、この仕上げの粗雑さはまったく改善されず、新たに登場したハッチェリートラウト等の新製品にも見られた。
よって、昔はちゃんと丁寧に作っていた、というのが正しいのかも知れない。
国内流通したオリジナルの7インチと5インチ、A.C.MINNOWの7インチを追加入手したのだが、サイズが異ると、アクションもまるで異なっていた。
5インチはサイズが小さい上に重量も軽いため、一見すると最も使い勝手がよさそうに思えるが、殆ど通常のジョイント・ミノーと変わらぬ大人しい動きしかしない。
よって、ビッグベイトとは呼べない普通のルアーだった。
7インチは、通常タックルで扱える限界サイズで動きは非常に良いが、アピール度合いがやや弱くなってしまう印象。
野池などでは良いだろうが、芦ノ湖では小さすぎると感じた。
9インチが最も動かし辛く、かつ深く潜ってしまうため、サブサーフェイスで上手く使うことが難しい。
ゾーンが深ければ使い道はあるのだろうが、強烈な引き抵抗を考えると、別のルアーの方が有効だろう。
12インチは最大サイズの割に使い勝手が非常に良く、実際よく釣れたので、以降はこればかりを使うようになった。
自分のA.C.PLUGでの釣果の殆どが、12インチによるものだった。
フォーク・アート・ルアーと呼ばれて
A.C.PLUGは、ルアーコレクター諸兄によると、『フォーク・アート・ルアー(FOLK ART LURE)』というジャンルに位置付けられるのだそう。
武骨で、装飾を気にしないその佇まいから、そう呼ばれているそうだが、確かにハンドメイドのビッグベイトには、そういった趣はある。
しかし、やはりA.C.PLUGは、『カリフォルニア・ベイト』と称される『ビッグ・ベイトの原点にして頂点』に位置付けられるのは間違いない。
どうもハンドメイドの大物狙いのルアーには強く惹かれてしまうのか、2002年に登場してすぐにロサンゼルスのピラミッドレイクでのストライパーのレイクレコードを樹立したことで一時有名になったSmirk Tackle社のS-PLUGというシリーズを集めるようになり、何やら日本のフォーク・アート・ルアーのコレクター筆頭とか呼ばれているのが、少々気恥ずかしい。
Smirk tackleのS-PLUGの話はまた別の機会に。
最後に、もしもビッグベイトを使うと決めたのならば、他のタックルは一切持っていかないことを強く勧める。
どうしても普通のサイズのルアーの方が投げていて楽なので、気付くとビッグベイトは全く投げなかった、なんて事になりがちだ。
腹を括ってビッグベイトを使い続ける方が、確実に釣果に繋がるし、面白い自分なりの使い方を体得することにも繋がるだろう。
結局のところ、様々な模倣品があっても生き残ったのはオリジナルのA.C.PLUGだけだったということだ。
その点、ガンクラフトの『ジョインテッドクロー』はリップレスであり、全く何にも似ていない、最もオリジナリティーのある国産ビッグベイトだと言える。
A.C.PLUGと違ってバスをスレさせにくい、大変素晴らしい傑作ルアーだと思う。
今、再びシーバスのビッグベイトフィッシングで、A.C.PLUG(A.C.MINNOW)が注目されているようで、自分の所有する古いオリジナルA.C.PLUGを探しているアングラーが非常に多いそうだ。
古いA.C.PLUGである必要はないと思うが、興味があるなら是非とも探し出して使ってみて欲しい。
このルアーは他のビッグベイトとは一線を画していることが良くわかると思う。
あと、どんなにアイやリップの位置が曲がっていようがチューニング(調整)はしてはいけない。
出荷時にちゃんと泳ぐように調整されているからだ。
下手に弄られてまともに泳がなくなってしまったと嘆くアングラーを何人も見てきたので、同じ轍は踏まないように注意を促しておきたい。
本気でオリジナルを手に入れたいのであれば、米国のメーカーサイトから注文することが出来るので、是非購入してみることを勧める。
昔は直接注文することなどできなかったのだから、良い時代になったものだ。
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