SMIRK TACKLE S-PLUG

  2000年に入り、オスプレイ社の大型スイムベイト『タロン』がビッグバスに非常に有効であるという特集記事が、バスフィッシング専門誌の紙面を賑わせた事を皮切りに、国内で空前のビッグベイト・ブームが湧き起こった。

 最初に注目されたビッグベイトは、ワーム素材で作られたスイムベイトだったのだが、徐々にウッド製や樹脂製のビッグベイトも紹介されるようになった。
 筆頭は、キャスティーク社のトラウトベイトで、他にはMSスラマー、レゴベイツ社のジェネリックトラウト、ドリフタータックル社のビリーバー、その他のマスキーベイト各種が日本に続々と輸入され、あれが効くだのこれが良いだの、随分とプロショップでは賑やかに百家争鳴な議論が交わされたものだ。
 国産ではフィッシュアロー(魚矢)からモンスタージャックというビッグベイトが登場し、一時期プレミアがつくほど人気があった。
 更に有名な元バスプロのK氏が『A.C.ミノー』を大々的にバス釣り雑誌で紹介し、後に自身のブランドからもA.C.ミノーのレプリカとも呼べるルアーを販売して人気を博すことに。
 物凄いスピードで誰もがビッグベイトに手を出し、専用のロッドも続々と発売されるようになった。
 そして、熱に浮かされたような流行と同時に、ビッグベイトはフィールドでの圧倒的な集魚効果を急速に失うこととなる。
 要するに『流行り過ぎた』のだ。

 何が次に来るのか?
 ブームというものは恐ろしいもので、先行してA.C.PLUGを実釣投入していた自分は、プロショップの店員に会えば必ず「次に来るのは何か?」と訊かれ続けたものだった。
 何せ当時のアメリカ製ビッグベイト事情には誰よりも精通しており、詳しかったのだから当然だ。
 表層のビッグベイトが効果を失えば、当然潜るタイプに注目が集まるのは必然。
 大方の予想はシンキング・ビッグベイトに意識が向いていたが、巨大なジグヘッドワームや、ジョイント部分にウィングを付けた『ストッカー・トラウト』のようなワーム素材のビッグベイトが流行ることはなかった。
 ビッグベイトは大きければ大きいほど効果があると喧伝され、実際にはろくに動かないような劣悪なビッグベイトでさえも、捏造された釣果を信じ込まされたアングラーがこぞって買い求めるような酷い時期だった。
 そんな中、ガンクラフト社から『ジョインテッド・クロー』が発売される。
 ビッグベイトのインパクトに慣れ、スレ切ってしまったフィールドであっても圧倒的な釣果を上げ続けたことで大いに注目されたが、それまで誰も見たことのない、リップを持たずにS字の軌跡を描いて泳ぐこのルアーは、その後、日本オリジナルの定番ビッグベイトとして完全に定着した。
 模倣品ばかりの国産ビッグベイトの中で、『ジョインテッド・クロー』には独創性があり、他に類を見ない優秀な国産ビッグベイトだったのだ。


 さて、そんな最中で自分がA.C.PLUGとは違うビッグベイトを探している際に注目したのは、カリフォルニアで発売されてすぐに爆発的な人気を博した、奇妙な形のルアーだった。
 その形こそ、これだ。




 ふざけてるんじゃないのか?と思わずにはいられない、やる気のなさ全開で脱力系の外観。
 しかし、その実力は本物だった。

こんな形のくせに、ちゃんと泳ぐ不思議

 S-PLUGは、厳密に言えば3つの大きさで発売されたルアーで、それぞれ『Chubby-S』、『BIG-S』、『GRANDE-S』という区分けで作られていた。
 とは言え、その大きさも、形状も、仕様も、同じサイズ区分であっても明確に異なっており、定型の形というものは存在していないようだった。
 製作者はスコット・ミューラー氏、ローカルなガレージメーカーの一つ。
 このルアーが突如として有名になったのは、カリフォルニア州ピラミッドレイクにおけるストライパーのレイクレコードを立て続けに樹立した事にある。
 陸っぱりのアングラーが多いカリフォルニアにおいて、このルアーは恐ろしいほどの遠投が可能な上、高速でリトリーブが出来るため、絶えずベイトを追って移動し続けるストライパーには非常に効果的だったのだ。
 ストライパー狙いの外道で何故だかビッグバスも釣れる事から、バスアングラーからも注目されたのだが、残念な事に登場から2年足らずで廃業してしまい手に入らない幻のルアーとなってしまった。

 自分が入手した経路は、地道にe-bayで出品されるのをひたすら待ち続けて落札していったのだが、随分と集まったものだ。
 知人友人にもいくつか分けたので、全てが残っているわけではないが、ざっと20個くらいは手に入れたと思う。
 中にはプロトタイプと思しきものも含まれている。
 まさか製作者のスコット・ミューラー氏も、自身の制作したルアーがこんなに日本に渡っているとは思うまい。

 使い方などあってないようなもので、ひたすら大遠投したら高速リトリーブするだけ。
 これだけで、S-PLUGは艶めかしくサブサーフェスをラインアイを起点にして激しくウォブリングしながら泳ぐ。
 基本的にはキャスト&リトリーブで使うルアーなのだが、トップウォータールアーとしてテーブルターンをさせたり、ダイブさせたりと面白い使い方も出来る。
 ただし、そのサイズも重量も呆れるほど大きく、重い。
 本来このルアーは止めて待つタイプではなく、高速リトリーブでフィッシュイーターの捕食スイッチを入れてバイトさせることだけを目的としたルアーなのだ。

 

メインカラーはレインボートラウト

 S-PLUGには実に様々なカラーパターンが存在していたが、メインカラーはレインボートラウトだった。
 というのも、ピラミッドレイクでのメインベイトは放流されたレインボートラウトだからだ。
 非常に凝ったカラーを施されたものもあれば、冗談のような雑な塗装をされた個体まで様々だった。
 更に、コーティングされたウレタンフロアのディップだまりもよく見かけられ、お世辞にも仕上げなキレイなルアーだとは呼べそうもない。
 しかも、シルエット的にレインボートラウトを模倣する理由もなさそうだが、いくつかのカラーバリエーションがあった気がする。
 全部のカラーまでは流石に覚えていないが、確かレインボートラウト以外には、パールホワイト、グリーンとイエローのツートーン(雑に塗り分けられている)位しかなかったような気がする。
 レインボートラウトカラーも濃淡があったり、ラメが振りかけられているものなど様々だった。
 いずれにせよ、このルアーは回遊魚に対しての効果を狙ったルアーであることは間違いない。
 待ち伏せ型のフィッシュイーターに対し、サブサーフェスでアクションさせて興味を引かせるにはスピードが速すぎるだろう。
 実際、ボートからキャスティングし、本来の使い方である高速リトリーブ中にバスを掛けたことは一度もない。
 スティックベイトのようにカバー周りでテーブルターンさせたりするトップウォーターベイト的なアクションにはいくつも反応があったので、決して釣れないということはないだろう。
 今年はちょっと厳しそうだが、来シーズンには琵琶湖あたりで高速リトリーブしてみたいと思う。

 こういう使いこなしてみたいと思えるルアーは見かけなくなってしまったね。
 似たようなジャンルにグライダーベイト(サルモ スライダー等)というものがあるが、このS-PLUGとは違うジャンルであるし、このルアーと似たコンセプトのルアーは未だ見たことがない。

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