ダイヤモンドリール プロラインNo.101

  ダイヤモンドリールが存在していた頃は、まさかメーカー自体がなくなるなんてことはこれっぽっちも思わなかった。
 1992年の秋、訳あって約7年振りに釣りに復帰した際、たまたま友人が住んでいた埼玉県志木市の古びた釣具店を物色していた。
 そこでは何故か新旧のダイヤモンドリールが二束三文で投げ売りされていたので、いくつか目ぼしい古いモデルを購入したのだが、投げ売りの理由はメーカーが倒産したからだとその時初めて知り、ひどくショックを受けたことを覚えている。

 ダイヤモンドリールは、自分にとって憧れのスピニングリールだった。
 地元にあった釣具店のショーケースに鎮座する真っ黒いスピニングリール(スーパーセブン、タックルオート等)は、群を抜いて格好良かった。
 小学生の頃、何とか手を伸ばせば手に入れられそうだったのが、インスプールのコメットG1だった。
 GSの方は流石に小さすぎてその時は欲しいと思わなかったが、結果的に20代の頃に最も愛用することとなったのは不思議な縁だと思う。
 コメットGSは、件の志木市の古びた釣具店で入手したものだった。

 今はもう手元に残っていないが、釣具店に残っていたダイヤモンドリールの古いカタログを何冊も持っていた。
 特に1979年カタログは、多少古めかしいが魅力あふれるモデルが数多く掲載されていたのでそれこそ穴が空くほど眺めたものだ。
 集めたダイヤモンドリールの殆どが、この頃までのモデルだったのはそのせいだろう。
 1979年のカタログにはインスプールモデルがいくつも掲載されていて、新製品としてのコメットGS/G1の他、マイクロセブンVS、マイクロ‐二世No.301、プロ・ラインNo101、No.1、No.3の7種が紹介されていた。(この頃まで左右両用ではない、左手捲、右手捲の2種を選ぶモデルがあった。マイクロ‐二世No.301と、プロ・ラインNo.101、No.1、No.3がそうだった)
 インスプールモデルの中で最高級という扱いだったのが、プロラインNo.101だった。(正式なカタログ上の表記は『プロ・ライン』)
 カタログでは明記されていなかったが、その理由はメインギアが”ウォームギア”だったからだ。
 ”ウォームギア”というギア形式がどういうものなのか当時は良く解らなかったが、ABUのカーディナルが同じく”ウォームギア”を搭載していることを知って44の復刻版を使ってみたのだが『随分と回転の重いリールだな』と思ったし、ベイルアームが回転する度に遠心力で振り回されるようなバランスの悪さが気になるだけで、全くと言っていいほど感動しなかった。

 その後、縁あって1990年代末期にデッドストックのプロラインNo.101を手に入れる機会があり、グリスアップして組み直したところ、信じられないくらい軽快にハンドルが回り、カーディナル44とはまるで別物のようなバランスの良さと精緻な造りに感動を覚えた。

 それまでコメットを愛用していたからインスプール式のスピニングリール自体の操作には慣れていたが、使い心地は全く異なっており、プロラインの方が断然操作感が良かった。
 なるほど、これは最高級品だ。

インスプールらしい佇まいだが

発売当時も古臭いデザインだった

 このサイズ感は非常に理に適っていると思う。
 今のダイワでいう所の2000番サイズかと思う。
 よりコンパクトなサイズのインスプールモデルには、コメットGSとマイクロセブンVSがあるが、マイクロセブンVSはアウトスプールのオートベールミニと同等サイズで最小。
 しかも、ルアーフィッシングのためにとカタログ上の記載があるが、渓流用なのだろうか?
 マイクロセブンVSの糸巻量が2号80mとあるのは、多いのか少ないのか良くわからない。

 インスプールの利点というものは、実際には殆どないと思う。
 もし、本当にインスプールに利点があるのならば、現在のスピニングリールにインスプールモデルが殆ど存在していないことへの説明がつかないだろう。(懐古趣味で人気のカーディナルを除く)
 要するに、元々インスプールしかなかったスピニングリールが、アウトスプールモデルに進化しただけなのだ。
 以前、五十鈴工業の先代社長に『スピニングリールが何故アウトスプールに集約されていったのか』について力説されたことがあった。
 「スプーリング(ブレーキを掛けること)が出来るため、アウトスプールが主流となった」のだと…。

 それまでドラグワッシャーのみでドラグを効かせることしかできなかったインスプールモデルに対し、①フライヤー(ベイルローター)の大幅な軽量化②ベイルアームを手動でも戻せる③アウトスプールのスカートに指を当ててドラグ力を上げられるなど、良いこと尽くめであり、アウトスプールに集約されていくのは当然の流れだったのだ。

 全くその通りだと思う。
 スピニングリールの雛型は、長きに渡りミッチェル308に代表されるインスプールタイプが1970年代まで主流であった、というだけに過ぎない。
 アウトスプールモデルにした当初はインサイドキックが組み込めず、リールフットに突起物を設け、開いたベイルアームのラインピックアップ基部を物理的にぶつけることでベイルアームを戻していた。
 ダイヤモンドリールでは、いち早くアウトスプールモデルのインサイドキック化に成功し、1978年にオートベール・シリーズが登場している。
 これを契機に、ダイヤモンドリールのアウトスプールモデルは、次々にオートベール化されていくのだった。

 閑話休題、プロラインNo.101に話しを戻そう。
 アウトスプールの方が総合的な基本性能が高いからといって、インスプールモデルの方が劣っているとは断言できない。
 特に小型軽量モデルこそ、インスプールモデルの方が圧倒的に使い勝手が良いことがままあると思う。
 そもそもライトラインで糸巻量も少ないとなれば、アウトスプールである利点が殆どない。
 これは経験則からくるものだが、アウトスプールのオートベールミニを使っていた際にスプールからラインが膨れ上がって糸落ちするようなライントラブルが良く起きた。
 特に太めの張りの強いナイロンラインを使うと良く起きたのだが、インスプールのプロラインやコメットではこのようなトラブルは殆ど発生しなかった。
 これはフライヤー(ローター)自体がスプールを覆う構造のため、物理的にフライヤーからスプールに巻いたナイロンラインがはみ出しづらかったためだと思われる。
 実際にスプールに巻けるラインは2号180m~4号100m。(1976年当時)
 現在の日本製ポンドクラス・ナイロンラインだと、8lb(0.25㎜)で180m~16lb(0.35㎜)で100mというところ。
 現実的にはコンパクトサイズのこのリールには6~10lbくらいが適正値で、エコノマイザーや下巻きをかましてやれば100m程度に巻くことが可能だろう。
 フェザーリングから流れるようにハンドルを回してベールアームを戻すことが出来れば、よく聞くようなライントラブルの類がインスプールで発生することはまずない。
 結局のところ、そういった操作の修練が必要だったスピニングリールが、アウトスプール化することによって修練不要で『とりあえずは使える』ようになったというのも良くなかったのではないかと思う。
 本当はアウトスプールも同じ動作で使うのが正しいのだが、それが出来るアングラーは今も大して多くはないようだ。
 実際にベールアームを開ける位置(ラインローラーのあるベールアーム基部の位置)は、リール後方から見て時計の針でいうところの1時から4時くらいの90度位の狭い範囲で開くものなのだが、道具への理解が足りないアングラーが増えすぎたことで、今ではインサイドキックすらないアウトスプールのリールすら存在しているそうだ。(それならどの位置でもベールアーム開けるわな)

 当時には存在していなかった高性能グリスとオイルのお陰で、いま手元にあるプロラインNo.101はラチェット音もかなり抑えられていて静粛性も高くなっている。
 スピンキャスティングリールにはしばらく休んでいただいて、久しぶりにスピニングリールでの釣行をしてみたい。

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