ルアーフィッシングの本

  もし、未経験者がルアーフィッシングを始めようと思えば、現在であれば専門的な書籍やムックは勿論のこと、インターネットで簡単に情報を集めることが出来る。

 しかし、それが1980年頃はそうでもなかったというのが今回のお話し。
 不思議なことに、自分は釣りに関してはかなり特殊な環境にいたと思う。
 まず、通常は釣りを始めるに際しては、親兄弟や友人、親戚等に、既に釣りを趣味としている経験者がいて、一つ一つ釣りの手順を教わって覚えていくのが王道だった。

 しかし、自分の周りには一人も釣りの経験者がいなかった。

 それが何故だか父親が『子供と一緒にできることは』と考えたらしく、自分が小学2年生の時に隅田川の用水路でタナゴ釣りに連れて行ってくれたが、釣りは未経験だけに、父と兄には当然の如く全く魚信はなかった。
 唯一、飽きることなく釣り糸を垂れてウキを見つめていた自分は、偶然だったのだろうがビギナーズラックでタナゴを釣り上げた。
 これが自分の釣り人生のスタートだった。

 近所(東長崎)の店名を思い出せないルアーとフライに精通した釣具店の話は何度もしてきたので割愛するが、もう一つ、母方の実家のあった三軒茶屋の世田谷通りを挟んだ対面にも小さな釣具店があった。
 店主は何冊もの釣りの入門書を上梓してきた、淡水釣りのエキスパートとして著名だった芳賀故城(はがこじょう)氏。
 とはいえ、歯に衣着せぬ江戸っ子の祖母曰く、「辛気臭くて面倒くさいオヤジ」だった。
 実際、埃臭い店に入っても雑多に売り物が積み上げられており、ルアーなんてどこにあるのって感じだった。(というか、ルアーはなかった)
 商売っ気がないどころか、店に入ると露骨に面倒くさそうな顔をされた。
 普段からそういったやるきのない感じの店主と、小学生だった自分との間に交流らしいものがあったかと言えば殆どなく、祖父と一緒に店に入ったら一冊の本を売ってくれた(売りつけられた?)こと以外は殆ど思い出せるような出来事はない。
 実際、ヘラブナ釣り用の練り餌のラインナップも脆弱だった(マルキュウの赤へら、へらグルテン、マッシュポテト、そしてスイミーは練り餌の材料として必須である)ので、徒歩10分ほどかかる別の店に買いに行くようになってしまったのだが、そうこうしているうちに芳賀故城氏の経営する釣具店はいつの間にか無くなっていた…。

 芳賀故城氏の上梓した釣り入門書が、いま手元に4冊ほどある。
 件の売り付けられた「少年川釣りブック」の他に、相当後になってからそれぞれ入手したのが、「鮎釣り」、「オイカワ釣り」、「ルアー釣り」の3冊。

↑これです

↑解説もありきたりな感じ

 中でもひどく内容が気になったのは「ルアー釣り」の本だ。
 1980年頃、芳賀故城氏に直接ルアー釣りについて聞いた時の返答は、「投げて巻くだけ」的な投げやりなもので、(このオッチャンはルアー釣りをやったことがないのではないか?)と訝しがったのだが、最近になって『ルアー釣り』の本を読んでみてもやはり同じ感想を抱いた。
 ヒロ内藤さんの『ハイパーバッシン』に記載されていたような詳細なテクニック解説は皆無で、詳細だったのは道具や服装、芳賀氏の独自理論だった過流線の理論についてであり、ルアーの具体的なテクニック(リーリング)は、明らかに常見忠氏の『ルアー野郎の秘密釣法』を参考にしたとしか思えないような内容だった。
 スプーンの使い方については常見忠氏の書籍は非常に参考になったが、芳賀氏の書籍には常見氏のような熱情のこもった気迫というべきものが微塵も感じられない。

 要するに、ルアーフィッシングは机上論で未経験だったか、やっていても触り程度だったのだろう。
 こんな書籍を真に受けていたら、釣れるものも釣れなくなりそうだ。
 実際、まったく釣れなかった。
 20代の頃、躍起になってルアーフィッシング関連の書籍を買って読んだ時に感じた机上論的なものをこの本に強く感じたのだった。

 最近の入門者用の釣り本にはどのような内容が書かれているのかを調べてみたことがある。
 親切丁寧、通り一遍の事を詳細に紹介されているのだが、何かが足りない。
 詳しく書きすぎては駄目なのだ。
 読者の想像力を掻き立てるような、丁度良い内容になっていないのが非常に気になる。
 しかし、今となってみれば、30数年前まではステレオタイプのようなルアーフィッシングのスタイルがあったことを思い出す。

 観音開きになる工具箱のような大きなタックルボックス、ロッド、リールは3種の神器だったが、冷静に考えて見れば、釣り場にいちいちタックルボックスを持ち込むのは大げさだ。
 常見氏の本に書いてあった通り、スプーンはカメラのフィルムケースにいくつか入れてポケットに入れて持ち運ぶ方がスタイリッシュだし、スマートだ。
 今となっては、薄っぺらのルアーケースだけで事足りるし、釣り場でいちいちルアーを変えたりなどはほぼしなくなった。
 ルアーも全てセットした各リグ専用ロッド(例えば、ラバージグ、スピナーベイト、ディープクランク、ミッドクランク、シャロ―クランク、ジャークベイト…etc)を何本もボートに持ち込んだりもしたが、実際使うのはせいぜい2本程度。
 持ってくだけ手間だった。

 ルアーフィッシングの入門書で良いものはあるかと訊かれれば、「かつてはあった」としか言えない。
 ヒロ内藤さんが2009年に上梓した『バスフィッシング』(つり人社)は素晴らしい入門書と断言するが、絶版なのでプレミアついてしまっているのが問題。
 再版を期待しているが厳しそう。
 その上で『ハイパーバッシン』(週刊釣りサンデー別冊)を読めば素晴らしいエントリーが出来ると思うのだが、こちらも絶版となって久しく、入手困難なのが問題であろう。
 ヒロ内藤さんには新しい入門書を上梓して欲しいと願ってやまない。
 その替わりが、YouTubeの動画『HIROismヒロイズム』となって、無料で見ることが出来る。
 ルアーフィッシングに行き詰っている若いアングラーには、是非観てもらいたい。
 ヒロ内藤さんの教科書のような理論的解説は、他のプロには決して真似できないと思う。

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