L&S社 フローティング・トゥイッチベイト

 L&S社のルアーについては、以前にサーフェイススピナー(ダブル・プロップベイト)の詳細を書いたことがあるが、現在、同社のラインナップには辛くも『10MR』と『5M』と『21LS』の3種のみが残っている、何とも寂しい状態だ。

 これはフレッシュウォーターのターゲット(バス、トラウト、パイク、マスキー)がメインであった同社の製品が、ソルトウォーターのターゲット(スヌーク、レッドフィッシュ、シートラウト、ストライパー、その他)を主体とするようになった影響が大きいのだと思うが、同社のラインナップで最も種類が多いのは、今も昔も『トゥイッチベイト』と称されるリップレス・ルアーだろう。

これはダーターなのか?

 トップトウの記事(ルアーエクストラクト)で、クリークチャブ社のダーターについて書いた際、L&S社のフローティング・トゥイッチベイトも紹介したのだが、このルアーは一言でいえば「ダーターの水中でのダート特性のみを切り出したようなルアー」だ。
 また、シンキング・トゥイッチベイトという同型のシンキングモデルも存在する。
 こちらはフローティングモデルのように浮かせて食わせの間を作ることこそ出来ないが、連続したトゥイッチにより水中での不規則なダートをこなしてフィッシュイーターの捕食スイッチをオンにする、また超高速でのジャーキングも可能であるなど、ソルトウォーターでの使い勝手は良好で、各種のサイズとウェイトが揃っている。
 このタイプのルアーの先駆けとなったのは、既に廃番となって久しい1948年に登場した『トラウト・マスター』と名付けられたシンキング・リップレスミノーである。
 最初からソルトウォーターでの使用を目的とし、トラウトと言っても淡水のトラウトではなく、北米海岸沿いに生息するスポッテッド・シー・トラウトと呼ばれるニベ科の大型魚をターゲットにしたルアーだった。
 最初に3タイプのルアーが製造され、ノーズ部にアイを設置した『#55』はシャローランナーで、これは後の『51M』の元となる。
 ヘッド上部にアイをつけた『#60』はミディアムランナーで、後の『52M』の元となる。
 最後に、『#60』のヘッドを斜めに切り落とした形の『#65』はディープランナーだが、これは後の『66M』にコンセプトが受け継がれたものの、形状までは受け継がれなかった。

 閑話休題、シンキング・トゥイッチベイトの話はここまで。
 フローティング・トゥイッチベイトに話を戻そう。
 1970年代後半のカタログに、フローティング・トゥイッチベイトとして掲載されているのは、スポッテッドフィニッシュのTINY TROUT(TT)FAMILYの中では『SK(Skipper)』と、レギュラーフィニッシュのFAMOUS 52M FAMILYの『28M』、『29M』、『7M』、『70M』の4種類と、TWO-HOOK SALT WATER MODELSの『3M』、『80M』の2種類の計7種類。(それぞれにラトラー仕様が存在するので、実際には14種類)
 サイズ的には、5.4cm-1/8ozの『3M』が最小で、7.6cm-1/4ozの『28M』と『29M』が小型、9.2cm-3/8ozの『SK』と『7M』が中型、10.8cm-5/8ozの『70M』が大型、12.7cm-1ozの『80M』が最大サイズとなっている。
 フレッシュウォーター仕様のルアーは、『28M』、『29M』、『SK』、『7M』、『70M』の5種類。
 そのうち、現在も入手が可能なのは『7M』のみだが、最新モデルには廃番となったルアーのコンセプトから派生したものがいくつか存在している。
 『7M』は、あらゆるフィッシュイーターに効果を発揮する、フローティング・トゥイッチベイトの金字塔的な存在であり、淡水、海水を問わず、シャローウォーターでは無類の強さを誇るルアーだ。
 地味な見た目もあってか、日本では人気は勿論、知名度もほとんどなく、使っているのは極少数のエキスパートに限られていて、その絶大な性能については未だ秘匿され続けている模様。
 実際に使ってみると、これはダーターなのか?それとも全く別のカテゴリーなのか?判別が難しいアクションだと感じる。
 ダータープラグは基本的に強い浮力を伴い、水中でのダートアクションの後にラインのテンションを抜けば、急激に後方へ浮上するためにキックバックを起こすもの。
 しかし、『7M』は浮力がダータープラグよりも抑えられており、またその形状から直上に浮上はしても、後方へキックバックすることはない。
 この地味なアクションは、本当にフィッシュイーターに効果的なのか?と懐疑的になるような「か弱い」ものだが、使えば納得、強烈にアピールするようで、呆れるほど釣れまくる。

スプーティニックとプロボーカー

 南米ブラジルで半ば伝説化したルアーに、『SPUTINIC(スプーティニック)』と呼ばれるルアーが存在する。
 スプーティニックは、元々フローティング・トゥイッチベイトとして設計されたものではなく、L&S社のクランクベイトであった『92MR SHAD RATTLER』のリップ部分を取り外し、ノーズ部分にウェイトを追加し、テンプル部分にラインアイを新たに打ち込んだ改造ルアーであった。
 当然L&S社のオフィシャルネームではなく、あくまでもブラジルのアングラー達の間で語られることとなったニックネームであり、ブラジルの釣り雑誌「PESCA&Companhia  No24(1996年)」の記事として掲載されたことで、この92MRの改造が大流行したそうだ。
 発案者はブラジルで著名なアングラーであるネルソン・ナカムラ氏で、『7M』よりも浮力の強いルアーを作り出すのに『SHAD RATTLER 92MR』のボディーは好都合だったとのこと。
 92MRを改造したスプーティニックは、あまりにも驚異的な釣果を叩き出したため、後にL&S社は専用モールドで、スプーティニックのオフィシャルモデルとなる『93MR PROVOKER(プロボーカー)』を製造販売することとなる。

↑フロントに段差部分があるのは元々クランクベイトのリップがあったため

  プロボーカーは1997年に発売されたものの、2004年には廃番となった短命のルアーである。
 元ネタになったスプーティニックがブラジルのローカル改造モデルだったこともあり、米国のL&S社に最も詳しいと思しきルアーコレクターからも『93MR PROVOKER』の立ち位置が良くわからないと指摘されている。(何故にプロボーカーのような不可解なルアーが登場したのかの理由が分からないため)
 ブラジルでは『T-MARU』というのコピー商品が作られたが、やはりオリジナルの『スプーティニック』と『プロボーカー』の方が人気があるそう。
 メインターゲットは、気難しいことで知られるスヌーク。
 とはいえプロボーカーは、誰もが簡単に使いこなせるルアーではなかった。
 それというのも、ノーズのテンプル部分にラインアイがありながらも、喫水線が低く(ボディーの浮力が高い)、水平姿勢で浮くためだ。
 着水と同時にトゥイッチングしても、水中へは潜らずに水面を滑ってしまう、その上ドッグウォークさせることもできないので、ろくに動かないルアーと評されてしまい、すぐに廃番となってしまった。
 ただし、このルアーは使い方さえ掌握してしまえば、他のルアーとはまるで異なる多彩なアクションを仕掛けることが出来る。
 着水からすぐにトゥイッチするのではなく、一度リーリングすると、真っ直ぐに引っ張られることで水中にダイブし始める。
 その状態からトゥイッチングを入れることで、左右に大きなダートをこなし、ロッドアクションを止めれば、高浮力ボディーはイレギュラーに浮き上がり、そのアクションの差でフィッシュイーターに強烈にアピールする。
 このコンセプトはそのままダーターアクションと重なるが、ダーターと異なるのは、音の要素がかなり排除されていたことだろう。
 アマゾン等のフィッシュイーターは意外なことに、水面での大きな捕食音には懐疑的な反応を示すことも多いらしく、派手なポップ音やチャガー音ではあまり反応が良くないことがよくあるそうだ。(状況によるらしい)
 手元にあるプロボーカーをしばらく使い込んで、このルアーの秘密を是非解明していきたいと思う。

コメント

人気の投稿