ダイヤモンドリール最期のハイエンドモデル(つづき)

 前回の『ダイヤモンドリール最期のハイエンドモデル』文末の追記で、ダイヤモンドキングのベースとなったTURBO(ターボ)を入手したと書いたが、両モデルを分解整備をして改めて分かったことをここに記しておきたい。

 3年後の進化(1988年から1991年へ)

 1988年のニューモデルとしてデビューしたTURBOシリーズは、ダイヤモンドリールのラインナップとしては珍しく、M(ミニ)、SS、No.1の3機種のみが発売された新機軸のスピニングリールだった。
 TURBOシリーズがダイワ精工のウィスカートーナメントSSに強い影響を受けて設計されたことはその外観からも容易に推察出来るが、当時は他の競合他社も同じようなものだったはず。
 ただし、1980年代中に実製品にまで漕ぎ着けられたのはシマノと大森製作所の2社だけであり、それだけこのタイプのスピニングリールを設計するハードルが高かったことが窺える。(パテント問題もありオリムピック釣具とリョービはロングスプール化されたスピニングリールを開発するまでに約10年を要した)

 まず、TURBOの特徴についてだが、これまで短胴が主流だったショートスプールが、初めてロングスプールとなったことがひとつ。
 設計の系統は異なるが、UPFIT、PROFIT、ACTIONの3機種がロングスプールを搭載したにもかかわらず、1989年カタログに一緒に掲載されていたCAREER MK-Ⅱ、MI-CON SPL、POSKA(CAREER MK-2はCAREER、MI-CON SPLはMI-CON 100系統、POSKAはMICRO7 C系統)が旧態依然としたショートスプールだったのは、ベースモデルの設計が古かったのだから仕方がない。
 これはサーフキャスティング競技で蓄積された『ロングキャストにはロングスプールが有効』というノウハウを具現化したもので、実際にキャスティング距離はショートスプールのものよりも明らかに向上している。
 ふたつ目は、それまでの簡易的なカム式摺動クランクから、メインシャフトからオフセットされたクロスウォームシャフトによる完全平行捲き機構を搭載したこと。
 これはロングスプールとワンセットになって初めて完成する機構であり、その後よく見かけたロングスプールにカム式摺動クランクの普及型スピニングリールの殆どが、スプール先端と後端が瓢箪の様に膨らんでラインを綺麗に巻くことが出来ないばかりか、キャスティング距離が伸びなかったり、無用なライントラブルを頻繁に起こしたりしたものだ。
 カタチだけを真似ても、大事な部分が旧態依然とした設計のままだと碌なことにならないということを証明している。
 これはショートスプールではあまり気にならなかった問題の箇所が、ロングスプール化により顕在化しただけで、現在主流となっている大口径短胴スプールのスピニングリールの殆どが、完全平行捲き機構を採用していることからもこちらが正しいエンジニアリングだという事がわかる。

 さて、TURBOはウィスカートーナメントSSとは外観は似ていたが、内部機構にはダイヤモンドリールらしさが随所にちらばめられていた。
 無駄なベアリングは使わず、必要最低限の箇所(メインシャフト基部、左右のドライブギア支持部)のみにボールベアリングを使っている。
 筐体に用いられたのは、マイコン・ウルトラシリーズで実績のある『チタン酸カリ・ウィスカー』で、軽量だが金属並みの硬度と耐久性のある素材。
 テフロン製スプールガイドも1980年代後半の目立つ装備のひとつだろう。
 スプールエッジに滑らかな素材を用いれば、キャスティング時の接触抵抗を軽減できるという考えは正しい。
 1990年代になるとスプールエッジにはジルコニアやチタンがこぞって採用されたため、もはや見ることのなくなった素材だが、個人的には1980年代っぽくて好きな箇所だ。

 3年の月日が流れ、1988年リリースのTURBOシリーズを「お色直し」したのが『ダイヤモンドキング』シリーズである。(ややこしいのは、後に『キング2499』の名前のついた小型リール2種が大森製作所の倒産後に出てくるのだが、ミニ、SSのみのラインナップと、オートベールとタックルセブンを掛け合わせたかのような中途半端な形状と性能のリールだった)

 TURBOとの相違点は、まずは筐体のチタン酸カリ・ウィスカーをパールホワイトに塗装したことがある。
 TURBOシリーズは無塗装素材であることが「売り」だったが、やはり無塗装の無垢素材の質感は安っぽく見えた。
 パールホワイト(真珠のような輝きを放つ白)は、このリールにとても似合っていると思う。
 スプールはテフロン製スプールエッジを廃して新たに鍛造強化スプールを採用、完全平行捲きシステムのクロスウォームギアシャフト後端にボールベアリングが追加されたくらいで、内部の機構にはほとんど変化がない。(もともと付いていないクロス・ウォームシャフト・ワッシャーが分解図から削除されただけ)
 後は、圧縮コイル式ベールスプリングのホルダー形状がリニューアルされたくらいだろう。
 いずれにせよ、No.2、No.3サイズが新造され、TURBOでは3種類だったラインナップが、ダイヤモンドキングでは5種類に増えた。
 個人的な見解だが、TURBOはダイヤモンドキングに至るためのベースモデルと捉えるべきだと思う。
 TURBOは素材選定と設計には全く問題はなかったのだが、高級感と重厚感が足りなかったのだ。

 今、ダイヤモンドキングはフルラインナップがそろい、Mが3台、SSが2台、No.1が1台、No.2が1台、No.3が1台ある。
 どれもが未使用品からほとんど使われた感じのない極上品ばかりだ。
 ダイヤモンドリール終焉期のリールで、カタログ未掲載モデルも含め、やはりダイヤモンドキングに相当するハイエンドモデルは存在しなかった。
 TURBOシリーズは手に入ったデッドストックのSSがあればよく、ミニもNo.1も必要なくなったとばかり思っていたのだが、またもや縁あってデッドストックのNo.1を入手。
 やはり集めろという神の啓示があるような気がしてならない。(買ってるのは自分の意志ですが)

この部分のサイズ表記が目立つ
こういった表示も見なくなった
ウィスカーチタンと誇らしげ
ウッドノブはこの頃の流行り
つつましやかなネーム
サイズ表記は後ろにはない
無塗装なのにハイエンド


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