マミヤOP APEX

 スピニングリールのハイエンドモデルを生まれて初めて使ったのは、1998年早春のことだった。
 2000年頃までメインの対象魚はトラウトであり、#8ラインでのストリーマーのフライもやったし、スプーンやミノーを駆使し、様々なスピニングリールを試行錯誤しながら使っていたことを思い出す。
 最初のリールがダイワ精工の『スプリンターST-900』であることは何度も書いてきたが、1991年に約7年のブランクを経てルアーフィッシングの世界に舞い戻ってきた当初も、まだこのリールを使っていた。
 使い込んだリールで慣れていたからというのもあるが、売っているスピニングリールの何を選んだらよいのかがまるで分らなかったので、そのまま使っていたのだった。

 巻いていたナイロンラインは10年前の投げ釣り用のカラー付き5号ラインのままで滑りが悪く、使い勝手が良いとはお世辞にも言えなかったので流石に巻き替えた。
 新しく巻いた3号の投げ釣り用のナイロンラインはどうにも心細かったことを覚えている。

 ルアー用のナイロンラインについては、この頃はまるで理解していなかった。
 ルアー専用ラインという商品も存在しているのは知っていたが、100m巻きしかないくせに異様に高価だったので選択肢から外れた。
 また、号数表記でないために太さが分からない。
 それに比べボビン巻きで売っていたナイロンラインは安価であり、1000m巻きもあったのでこれを使った。
 ラインは安物のボビン巻きのナイロンラインで充分だった。
 実際、ルアー用ラインではポピュラーだったバリバスや東レのソラロームに比べてもあまり遜色がなかった。(根掛かりを引っ張るとよく伸びた印象はあった)
 しかし、『スプリンターST-900』はそもそも性能の良いリールではなかった。
 糸撚れは勿論のこと、クロスラップがうまくいかずにラインが食い込み、ドラグは閉めるか出るかのどちらか。
 そして巻き心地も廉価版の宿命でひどく抵抗感があり、何度もキャストとリトリーブを繰り返すにはとにかく疲れるリールだった。
 そこで、古い釣具屋で既に入手していたダイヤモンドリール『コメットNo.G1』に交換してみることに。
 『コメットG1』は『スプリンターST-900』と同時期に発売されていたリールだが、操作感が軽快で非常に素晴らしかった。
 ところが、今度はアウトスプールでは考えられないようなインスプール特有のライントラブルに悩まされようになる。
 ラインはどんどん細くなっていき、最終的には2号まで落としたが、それでも投げるたびにライントラブルを起こした。
 これはスピニングリールの使い方が全くなっていなかった所為でもあるが、インスプールのスピニングリールはアウトスプールのものとは勝手が違い、正確な操作を強要されるところがあった。
 スプールに撚れたまま巻き付くようなひどいライントラブルを起こすことに辟易として、遂にはアウトスプールの『キャリアNo.1』に切り替えてしまった。
 『キャリアNo.1』はタックルオートの樹脂版であり、極寒のフィールドでもリールが冷たくならないことから選択したのだが、それでも極寒のフィールドではロッドのガイドが凍り、ベールアームさえも固着することに嫌気がさして、AbuGarcia社の『1044 SYNCRO MATCH』に切り替えたところ、ライントラブルや固着の問題は全て解決した。
 ラインを殆ど触らなくていいのと、ベールアームをいちいち開けなくていいことが利点だった。
 ただし、欠点としてリトリーブスピードが極端に遅く、グリグリメソッドの真似事は一切できなかった。
 スプーンを遠投するのには良かったが、やりたいのはミノーイングだったのである。

 社会人になり、釣行頻度が上がって芦ノ湖通いも本格的に増えていったのと同時期に、リリースされたばかりのマミヤOPの新型スピニングリール、『オースターSS‐600』を手に入れた。
 既に復刻版の『カーディナル 44』を手に入れていたので、真っ先にグリグリメソッドで使ったのだが、湖岸を移動中に転倒してローター部を岩にぶつけてしまい、それきりローターが歪んで回らなくなってしまった。
 『カーディナル 44』は数回キャストしただけで壊してしまったため、スペアで持ってきていた『オースターSS‐600』に替えて使い始める。
 「・・・こっちの方が全然いいじゃん!」
 素直な感想だが、当たり前だ。
 基本設計が1960年代末期のものである44(復刻版は1993年登場)に対し、オースターは1997年のバリバリのニューモデルだったし、後に【普及版スピニングリールの傑作】と呼ばれることとなる優秀なリールだった。
 ただし、絶賛されたドラグ性能に関しては、特別優秀さを感じなかったのも事実。(ダイヤモンドリールのドラグ性能が優秀だったので、さほど感動しなかった)
 その日掛けた50オーバーのレインボーに走られまくり、ついにはフックアウトしてしまったことに腹を立て、なにやらドラグ性能が突出していると以前から聞かされていた同社の最上位機種であるAPEX(エイペックス)を無理して買うことに決めた。

↑琵琶湖でも活躍

 1997年の秋、かつて渋谷の駅前にあった上州屋で発注し、1998年1月に『APEX-700』を定価で手に入れた。(600は適用ラインが細かったので、汎用性のある700にした)
 当時最も人気のあったシマノの『95ステラ』やダイワ精工の『トーナメントZ-iA』のように店頭に飾られるような人気のリールではなかったので、実機を見るのはこれが初めてだった。(この頃のマミヤOP製品は、釣具量販店からはマイナーメーカー扱いだった)

 1998年早春2月末、意気揚々と新調した7ftのスピニングロッドとAPEX-700にナイロン8lb(レグロントーナメント)をセットして芦ノ湖の湖岸に降り立ち、特別解禁日にデビュー戦を迎えた。
 オースターSSと比較して、約5倍の価格差を埋められるだけの価値は『確かに』あった。
 操作感がまるで違っていたのである。
 『完成されたハイエンドリールとはこういうものなのか!』と、感動すら覚えた。
 そして、このリールは魚を掛けてから本領を発揮する。
 50オーバーのトラウトであろうとも、何メートルも走られたりすることは一切ない。
 強烈なストッピングパワーを有するドラグ性能のため、驚くほど簡単にランディングできたのだ。
 ライトラインであっても、ラインブレイクをまったく心配しないで済む。
 また、今まで一度たりともラインブレイクされたことはない。
 当時のAPEXと同等の価格帯だった『98ステラ』と『99TD-X2506C』を後に手に入れて使ってみたが、APEXほどの凄さを感じることはなかった。
 それまで『ステラ』や『チームダイワ』を使ってきたユーザーは、逆に『APEX』を一度も使ったことがないので、何がすごいのかがさっぱり理解できないだろう。
 マイナーなリールにはこういうことが良くある。
 メタルボディーの『APEX』は、たわみや歪みに対して圧倒的に剛性感が高かった。
 TD-X2506Cは大型の魚を掛けると、リールフットがたわみまくって「大丈夫なのか?」と心配になったし、APEXよりもさらに高額な製品であるにも拘らず、使用感は逆にチープさすらも感じさせた。
 98ステラも、特筆すべきところが何も感じられず、「噂ほどではなかった」というのが正直な感想だった。
 その後、『APEX』は『600』を2台、『700』を更に1台追加して2台、『800』サイズはフィンノールとヤマハのコラボレーションによる特別仕様の黒い『Primeo Ti-3000』を1台所有した。
 同社のソルトウォーター用の新型機だった『メガキャスト』は『700』と『800』を一台ずつ、汎用機の『オースター』は『600』と『700』を1台ずつ、『オースターEX』は『600』と『800』を1台ずつ、『リベロ』は『700』と『800』を1台ずつと、気が付けばマミヤOPの終焉期のスピニングリールだらけになった。
 管理釣り場のトーナメントに出場していた頃、出たばかりの初代『プレッソ』と初代『ソルティスト 月下美人』を手に入れたが、あまり思い入れがない。
 『月下美人』は極端な逆テーパーがフロロカーボン向きだったので今も手元に残っているが、『プレッソ』は特に魅力がないのですぐに手放した。
 最期に五十鈴工業の『チャージャー3A(アウトスプール)』を手に入れたものの、残念ながら操作感は『オースター』よりも劣っていた。
 インスプール版の『チャージャー3E』はかなり頑丈だったけれども、バスやトラウトで使うには重すぎたので使えない。(310g)

 さて、『APEX』にも欠点はなかったわけではなく、欠点のひとつに同社の他のモデルと比べても整備性が非常に悪いことが挙げられた。
 ローター部分を外さないと、サイドカバーすらも外せないのだ。
 逆にサイドカバーを落とす心配はないが、メインギアに注油やグリスを塗布し直すのは面倒だった。
 よく「重い」と言われるが、バランスが良いのであまり重さは感じさせない。
 操作はシンプルで普通に扱える。
  また、『ボールベアリング入り深溝チタン製ナチュラルラインローラー』は体感的にも糸撚れが圧倒的に少ないのも事実。
 ダイワ精工のツイストバスターとは違う糸撚れ対策アプローチでとても気に入っているが、『APEX』以外の機種(メガキャスト、リベロ、デュロ、オースター、ランサープラス等)にも同じものが装備されていたはずだ。
 幅広のラインローラーで左右にラインを転がすよりも、位置決めをしてスムーズにラインローラー上でラインを転がす方が撚れが入りづらいのだろう。
 コーティングPEは使ったことがないが、狭い溝にラインを通す構造上、多分コーティングはすぐに剥がれてしまうと思うが、チタン製なので削れたりはしなさそうだ。


【軽さの弊害】
 昔(2000年ぐらい?)から、タックルは軽ければ軽いほど良いとされ、スピニングリールのハイエンド機は既に150g前後まで軽量化されている。
 しかし、はたして軽さは本当に武器になるのかと問われたならば、「魚を掛けるまでは武器になるかもしれないが、魚を掛けてからは心配の種にしかならない」と自分は答える。
 APEXの重量は270g以上もあり、メタル筐体の重さがはっきりと感じられるが、決して重すぎるほどではない。
 淡水のルアーフィッシングで扱うリールの重量上限は、実際には400g近くまで余裕がある。
 剛性感のないリールなど、使いたくもない。
 かつて、ダイヤモンドリールのカーボングラファイト製ボディーの『キャリア』シリーズを使ってきたからこその実感だが、軽量化した結果、剛性感を失ってたわむようなリールは不安材料でしかない。
 そのために、わざわざタックルオートに戻して使ったほどだ。

 スピニングリールの設計には、各社各様のものがあるが、マミヤOPが釣具事業から撤退する前の1997年から2000年までのスピニングリールたちは、明らかに当時のスペックを上回る名機揃いだった。
 1998年頃のカタログを見返してみたが、シマノのスピニングリールはハイエンドの『ステラ』、ミッドハイの『ツインパワー』、ミッドレンジの『バイオマスター』、エントリーモデルの『アルテグラ』の4種しか存在していなかった当時、マミヤOPの普及モデルであった『オースター』は、ミッドハイクラスの『ツインパワー』に匹敵する性能を持っていたことからも、その高性能の程が垣間見える。
 『エイペックス』は気づけば2000年には最も安いハイエンドリールになっていた。
 それどころか、ダイワ精工のミッドハイレンジの『TD-X2506C』の方が高価だった。
 今でもハイエンドリールは10万円くらいに設定されているが、壊れることのない当時のマミヤOP製のリールがどれだけ優れた設計だったのかが今になると良くわかる。
 同じ時期に売っていたシマノ製のリールはフリクションリングが溶けてしまう、ダイワ製のリールはベール下がりを起こして使えなくなるなど、問題だらけだ。
 シマノもダイワも、次々と新しいリールを買って貰うことが前提で、リールの耐久性は二の次のなのだろう。
 多分だが、今のハイエンドリールも20年も使い続けることはできないと思う。
 そう考えれば、ダイヤモンドリールもマミヤOP製のスピニングリールも、必要最低限のメンテナンスで、何十年と長く使うことのできる耐久性を備えた、非常に優秀な工業製品であることが証明されたわけだ。

 真面目にユーザーを想ってモノづくりをしてきたメーカーが淘汰されてしまうというのも何とも皮肉な話だと思う。

 持っている方は、大切に使ってやってください。

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