スピンキャストリールの枠

  先日、フィッシングリール解説のスペシャリストである竹中由浩氏が執筆された「ミスター・ハラの記憶 リール哲学」を読み、前半の原氏によるスピンキャストリールに関する解説があまりにも的確であり、感動すら覚えた。

 「スピンキャストリールの『枠』」という表現が、今まで自身が述べてきた「スピンキャストリールの機能的な制約」以上の的確さで、とても腑に落ちたのである。

 原氏の解説はZebco、Lew、ABU、その他の国産スピンキャストリールには確かに当て嵌まるのだが、日本のリール設計者が触れる機会のなかったであろう、1960年代までのshakespeare社と、1990年代まで日本での発売がなかったJohnson社のスピンキャストリールだけは事情が違っている。

 そもそも、スピンキャストリールが誕生した背景から考察すると、「枠」を事前に設定した上で生まれたわけではない。
 スピニングリールの取り扱いの煩雑さと、ベイトキャスティングリールに必要な修練とバックラッシュの危険性、これらを取り除いたトラブルフリーの新機軸リール。
 それがスピンキャストリールであり、そこにはまだ『枠』は存在していなかった。
 オンロッド、アンダーロッドでも扱え、軽量ルアー(餌)から重量級ルアー(餌)まで、自在に扱うことの出来る懐の深さ。
 ただし、これはあくまでもパンフィッシュを相手にした場合。
 すなわち、パンフィッシュ用のリールと考えれば、当初から大型リールのような使い方は想定されていなかったため、使用するナイロンラインも6lb~12lb程度。
 これが『枠』の正体。
 この『枠』に嵌らなかったのが、Shakespeare社の『Wonder Cast』シリーズと、Johnson社の『Sabra』シリーズだった。



Shakespeare社のWonder Cast

 個人的には1952年に発売されたShakespeare社のSpin Wondereelこそが、アンダーロッドではあるが実質上のスピンキャストリールの始祖であると考えているが、1957年にオンロッド版の『Wonder Cast』が登場した際、決してパンフィッシュのみをターゲットとしてはいなかったことは明白だった。
 初期モデルの1775には6lb、廉価版の1774と豪華版の1776は8lb、ハイパワーモデルの1777は10lbと、プリインストールされたナイロンラインこそ『枠』のままだが、1960年に登場したハイパワーモデルの1796と1798には15lbが標準装備され、その後の大型モデルとなった1795、1788に至っては20lbの使用も視野に入れた設計がなされており、フレッシュウォーターのバス、マスキー、サーモン、ソルトウォーターのスヌークやシートラウト、ブルーフィッシュをもターゲットとしたスピンキャストリールだった。
 ラインの太さも筐体の大きさも『枠』からはとっくにはみ出していた。
 また、Shakespeare社のスピンキャストリールは特にドラグ機構に趣向を凝らしており、ノーマルのスプール逆転式でさえも強力なストッピングパワーを有し、ダイレクトドライブやデュアルドラグなど、大型魚とのファイトに重きを置いているのが良くわかる。


Johnson社のModel No.130 Sabra

 1960年に、奇しくもJohnson社が新機軸の『枠』を超えたスピンキャストリールを市場投入している。
 Model No.130 Sabraである。
 Sabraは非常にわかりやすいリールで、通常のスピンキャストリールより一回り大きく、武骨なデザインは既にベイトキャスティングリールと同等の風格を備えていた。
 最も特徴的なのが、『パワーシフト・ハンドル機構』と呼ばれる同社独自のドラグ機構だ。
 スピンキャストリール最大の欠点とされる糸撚れの問題を完全に克服した、唯一無二のドラグ機構であり、釣力が弱いとされてきたスピンキャストリールの欠点すらも、巻き上げ力をダイレクトドライブ化することで見事に克服している。
 スピンキャストリールの『枠』を超えた、数少ない製品の一つだろう。
 同社は後に改良型となる『130A』、『130B』、後継機となる『131』、『Force 335』、『Force 340』ばかりか、派生機である『160 Guide』や、『165 Guide』、『170 Seville』、『Strike435』、『Freedom440』をも生み出している。
 これらのリールは筐体重量が350gを優に超え、オフセットのグリップと組み合わせてしまうと非常に重いタックルとなる。
 当然ながら6ftを超えるようなロングロッドでは持て余してしまうだろうが、トゥーハンドで扱うとなれば話は別。
 実際に、そうやって使うことで、スピンキャストリールの『枠』すら突破してしまっていたのだ。

スピンキャストリールの『枠』とは?

 『枠』は、確かに殆どのスピンキャストリールに存在している。
 それはパンフィッシュやバスをターゲットにするのであれば問題ない。
 キャスト距離や使用するラインの制約があったとしても、それを楽しめるフィールドを自ら作っていることと同意だろう。
 しかし、この『枠』を壊すことを「無粋」というのも少し違うように思う。
 そもそも、コストやサイズの問題で、スピンキャストリールに『枠』を作らざるを得なかったのではないだろうか?
 ターゲットをより広く設定しさえすれば、自ずと『枠』の大きさは広がっていく。
 Wonder CastやSabraは、そんなスピンキャストの既存の『枠』を飛び越えた、ひいては最初から『枠』のことなど完全に無視した、先進的なスピンキャストリールと言えるのではないだろうか?
 トラブルフリー、ハイパワー、高い信頼性、…etc.

 長年にわたり、数多くのスピンキャストリールに触れてきたためか、何をどうすれば『枠』を超えたスピンキャストリールが出来るのかが、なんとなく分かってきたような気がする。

 大口径ローター、深い嵌合のパーマロイ製大口径ドライブ(フェイス)ギア、高強度真鍮製ピニオンギア、オシュレーション機構、ドライブ・トレイン・ドラグ、高強度セラミック製ダブルピックアップピン、ラインスナバー、軽量高強度の合金製筐体、同素材ベルカバー、同素材ケーシング、大型プッシュボタン等。
 流石に本体重量だけは300g台を切るまでの軽量化はしたい。
 ストレートグリップには難しいだろうが、ストライクグリップには取り付けられるようにしたい、などと夢想するのが楽しい。

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